私たちと企業をつなぐ「ブランド」。近年では、ますます多くの会社が「ブランディング」に注力しはじめています。 本特集では、トップランナーが展開するブランドコミュニケーション戦略を紹介しながら、有形、無形の「ブランド」が生み出す価値や資産、さらに、その背景にあるそれぞれの企業の思いに迫っていきます。

音楽で人々の人生を豊かにしていく ーヤマハ株式会社

「ブランド」特集の第一回は、日本が世界に誇る楽器・音響機器メーカーヤマハ株式会社に注目します。音楽で世界中の人々の生活を彩る同社は、2018年4月にブランド戦略本部を創設。新体制でのブランディングを開始しています。「Yamaha」ブランドの伝統、現在地、そしてその目指す未来について、同本部のみなさんにじっくりと語っていただきました。

お話を聞いたマーケティング統括部 マーケティング戦略部のみなさま
西村淳さん(部長)
オス シモンさん(ブランドマーケティンググループ リーダー)
赤尾枝里子さん(ブランドマーケティンググループ 主事)
黒田万悠子さん(ブランドマーケティンググループ 主事)

一貫性のあるブランドメッセージを発信

ーはじめに、今年4月にできたブランド戦略本部の立ち上げの経緯についてお話しいただけますでしょうか?

西村:当社は、2016年4月から「NEXT STAGE12」と銘打った中期経営計画をスタートさせました。そこで我々は、「なくてはならない、個性輝く企業」になることを目指して、ブランド力を一段高め、その結果として高収益な企業に成長する、と宣言したわけです。

それを実現するために誕生したのがブランド戦略本部です。従来、事業部門に内包されていたマーケティング統括部と、技術部門の傘下にあったデザイン研究所、そして、人事総務本部の中に存在していた広報部を集結させ、社長を本部長に据えた推進力・求心力の強い体制で組成されました。

ーブランド戦略本部ができたことで、どのような変化があったのでしょうか?

西村:総合的に「ヤマハ」というブランドを社会に発信していく準備が整ってきました。従来、事業部門は、製品ごとに個別にアイデンティティを打ち出そうとしていましたし、その一方で、広報部門は、企業広報という視点でブランドを語ってきました。けれども、そのやり方では、お客様に統合したメッセージが伝わらず、イメージが分散してしまっていたのです。

ーそれぞれがそれぞれの視点からメッセージを発信していたために。

西村:ええ。当社のブランドについて調査してみると、ヤマハに対して持つイメージが、世代によってかなり異なるという結果が出ています。さらに、10代、20代では、イメージ自体が湧かない方もいらっしゃるという大きな課題も浮き彫りになりました。

次世代のお客様に対して、ヤマハブランドのイメージや価値をお届けできていない現実を痛感し、反省するなかで、我々ブランド戦略本部は、これからの音楽文化を支える世代に向けても、当社のこれまでの活動、そして、未来を見据えた挑戦を、統合的に正しく発信していこうと決意したわけです。来年以降に向けて、まさに現在、ヤマハブランドとして一貫性のあるメッセージやデザイン、ストーリーを紡いでいるところです。

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ーターゲットは若者に絞っていこうというお考えですか?

西村:若者といっても、デモグラフィック的な「若者」というよりは、「どういう人生を目指している方たちなのか」という括り方だと考えています。たとえば、ミレニアル世代のマインドを持った60代の方もいるわけですから。ともすると、我々はこれまで、「すでにヤマハと接点をもっておられる方々」という限られた対象を念頭においてメッセージを発信していたところがあったのかもしれません。

けれども、今後はやはり、いま現在ヤマハに接していないお客様をいかに巻き込むかということに注力していきたいと考えています。お客様の日常の文脈のなかに、ヤマハの製品というよりは、ヤマハという体験を感じてもらえるようなところを目指して。ヤマハが提供する製品やサービスは、生活必需品ではありませんが、我々はそれらを、人間がより心豊かな生活を送っていくための「人間必需品」であると信じています。そうした思いに共感していただけるようなメッセージを発信して、お客様と一緒にブランドを作っていくことが目標です。

社会課題解決のためにも音楽の力を活用

ーメッセージを発信する手法は様々だと思いますが、今年7月にオープンした企業ミュージアム『イノベーションロード』もその一環ですよね。

西村:そうですね。イノベーションロード開設の目的の一つは、ヤマハという企業の歴史やブランドの資産を俯瞰的に眺めるための場作りです。先ほど申し上げたイメージ調査の結果と同様に、ヤマハで実際に働く社員であっても、入社した年次によって自社に対するイメージが異なるわけです。

イノベーションロードでは、いまの若い社員たちが会社の歴史を知ることで、ブランドに思いを馳せることができます。あるいは、ご来場いただいた一般のお客様が、歴代のヤマハ製品を通して、ご自身の過去を呼び起こしたり、未来に想像を膨らませていただくこともあるかもしれません。また、まだヤマハに触れたことの無い方に興味を持っていただくきっかけになるかもしれません。そうした狙いもあって、我々は、ほとんどの製品に触っていただけるというコンセプトで作りました。「手触り」を通して、我々のクラフトマンシップを直接的に伝えたい、触れるブランドを体現したい、という思いを込めた施設です。

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ーさらに、御社の場合、国内のみならず、グローバルでのブランディングも必要ですよね。

西村:現在、当社の海外売り上げは全体の2/3を占めており、海外の方が多いです。必然的に、我々がいま手がけているブランド戦略という仕事もグローバルに向けたものになります。ですから、日本人が日本の生活感覚で考えたメッセージでは、欧米の方に理解されづらいことも多く、苦労することもあります。

そうしたなかで我々は、海外のメンバーも含めて議論を深め、全世界で通用するシンプルな強いコンセプトでメッセージを発信していきたいと考えています。

ー音楽には国境を越えるパワーがありますし、先ほどおっしゃっていただいた「人間必需品」としての御社の製品がさらに広まれば、世界中で、さまざまな良い影響が生まれてくることが期待されますね。

オス:そうですね。我々は、音楽がいろいろな形で社会課題を解決できるパワーを持っていると信じていますし、実際に具体的な活動も展開しています。一例としては、主にアメリカで展開している「Yamaha Music and Wellness Institute」が挙げられます。その活動のなかでヤマハは、戦争からの帰還兵に対して、ストレスの緩和やトラウマを乗り越えるためのプログラムを提供し、音楽を通して、心身の回復に寄与するという試みを行っているのです。

そして、もう一つ紹介すると、中南米で、子供たちの育成プログラムの一環として、生活環境の厳しい子ども達に音楽教育・楽器演奏の機会をつくる、それを長く使っていただくために、楽器のメンテナンスのための技術者を育成するプログラムもサポートしています。それ以外にも、さまざまな活動がありますが、社会課題解決のために音楽の力を活用することは、我々の大きな責任だと自覚しています。