2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」。それから、約三年の時を経た現在、SDGsは私たちの身の回りの生活、あるいは、ビジネスにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。社会や企業の意識・行動の変化から、世の中の潮流を読み解きます。

「自利利他公私一如」を世界中で実践する ー住友商事 サステナビリティ推進部 松浦俊行さん 自動車流通事業第二部 増田直弘さん、横田秀彰さん

SDGsに対する企業の取り組みを紹介する連載第4弾。今回は、多岐にわたる事業領域でグローバルにビジネスを展開する住友商事に注目です。400年の歴史を誇る住友の事業の中で、住友商事は来年で100周年という節目の年を迎えます。長い年月をかけて育まれてきた社会に貢献する精神、そして、現在の取り組みとは? サステナビリティ推進部の松浦俊行さん、自動車流通事業第二部の増田直弘さん、横田秀彰さんに語っていただきました。

マテリアリティ(重要課題)の発信

ー最初に、御社の社会への貢献に対する考え方についてお伺いできますでしょうか。

松浦さん:住友の400年にわたる歴史のなかで脈々と受け継がれてきた住友の事業精神が、当社グループの経営理念の根底に流れています。その事業精神を表わす言葉のひとつに「自利利他公私一如」があります。つまり、私たちは、自分たちだけの利益を追求するのではなく、「事業を通じて社会に貢献する」「世の中に価値を提供して、共に成長していくことを目指す」という精神でビジネスを行なっているわけです。その思いは、SDGsの採択前も後も変わっていません。

ーそもそも御社の遺伝子に社会貢献の精神が組み込まれているわけですね。

松浦さん:はい。そうしたなかで、近年多くの企業で自分たちの強みや特徴を生かして、自社が重視する社会課題の解決への取り組みを積極的に開示するという動きが活発になっています。

当社も昨年の4月に「マテリアリティ(重要課題)」を特定し、開示したところです。「社会とともに持続的に成長するための6つのマテリアリティ」と題して、社会の課題を4つ(「地球環境との共生」「地域と産業の発展への貢献」「快適で心躍る暮らしの基盤づくり」「多様なアクセスの構築」)、そして、それを実現するための当社自身の課題として2つ(「人材育成とダイバーシティの推進」「ガバナンスの充実」)を挙げました。

ー御社がマテリアリティを特定する際、SDGsの存在はどのような影響をもたらしましたか?

松浦さん:マテリアリティを特定するために、まず当社が世界中で展開する約100の事業それぞれがSDGsのどのゴールやターゲットと関わっているかについて、分析や議論を行いました。

そこからさらに、当社の事業理念や経営精神を踏まえて、最終的に世の中にもわかりやすい言葉にしたわけです。現在は、このマテリアリティを対外的に発信し、社会とコミュニケーションしていくことに取り組んでいます。

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サステナビリティ推進部 松浦さん

ー総合商社はビジネス領域が多岐にわたりますから、さまざまな分野での貢献が期待されているかと思います。マテリアリティは事業とどのように関わっているのでしょうか?

松浦さん:当社では、たとえば新規プロジェクトを起案する際、社内の申請書のなかで、その事業が「社会に対してどのような意義があるのか」をマテリアリティを通して考えています。勿論、既存のビジネスもそもそも事業の開始当初から経営理念に照らし合わせたうえで行なっているわけですから、マテリアリティのどれかには必ず当てはまると認識しています。

ただ現状を整理するというだけではなく、今後、新規ビジネスにおいても既存ビジネスにおいても私たちが社会課題に向き合いながら事業を展開していくなかでマテリアリティを10年後、20年後の未来を見据えるための道しるべとして捉えています。

事業精神からすれば当然やるべきこと

ーそれでは、御社が取り組まれている社会課題への取り組みについて具体的な事例を教えてください。

増田さん:私の所属する自動車流通事業本部では、イラクにトラックを輸出していますが、近年、イラクではイスラム国の侵攻によって国内避難民が膨れ上がり、避難民キャンプがあちこちにできていました。

そのような深刻な状況において、当社は、自分たちに何か貢献できることはないかと考え、日野自動車製のトラクターヘッドと医療機器を備えた診療トレーラーから構成される移動診療車を外務省の「草の根・人間の安全保障無償資金協力スキーム」を通じてイラクの赤新月社(日本における赤十字社に相当)に贈ったんです。

移動診療車が避難民キャンプを巡回すれば、それまで医療を受けられなかった方に対しても基礎医療を提供することができるようになります。今年7月にバグダッドで納車したばかりなので、これからの活躍に期待しているところです。

ー医療にアクセスできなかった人に対して医療の機会を提供されたということですね。

増田さん:ええ。そして、もう一つイラクの事例をご紹介します。住友商事には、イラクでトヨタの自動車と日野のトラックを販売するトヨタイラクというグループ会社があります。一昨年からそこでは、UNDP(国連開発計画)とともに計画した若者向けの職業訓練のプログラムを実施しています。

イラクには、避難民となった方々が故郷に戻ったときに、なかなか仕事を得られないという課題があります。しかも、彼ら彼女らの多くは手に職があるわけでもありません。そうしたなかで、私たちの行なっている職業訓練を終えた方々は、トヨタイラクや傘下のディーラーで働いていただく場合もあれば、あるいは、他の企業に就職されることもありますが、いずれにしてもトヨタイラクのトレーニングを受けたという実績がスキルの保障になって職を探しやすくなるわけです。こうした取り組みも社会に貢献するひとつの形だと考えています。

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自動車流通事業第二部 増田さん

ーまさに、御社のマテリアリティを体現するような取り組みですね。

増田さん:ありがとうございます。ただ、こうした活動はマテリアリティやSDGsを意識して敢えて行なったわけではなくて、当社の事業精神からすれば当然やるべきことだと認識しています。海外からやって来て、単にものを売って利益を国外に持ち帰ってしまうだけの企業では現地の方から歓迎されないでしょう。

社会の一部に溶け込んでいかなければ、事業としても継続できない。そうした考え方が、「自利利他公私一如」なんです。自分たちだけが成長して儲かればいいのではなくて、社会に対しても貢献していく。それによって社会が発展していけば、いずれ自分たちに利益が還元される。

まさにイラクにおける活動は「自利利他公私一如」の精神を地に行ったものだと自負しています。そして、当社はイラクに限らず、それを世界各国で展開しているわけです。