2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」。それから、約三年の時を経た現在、SDGsは私たちの身の回りの生活、あるいは、ビジネスにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。社会や企業の意識・行動の変化から、世の中の潮流を読み解きます。

SDGsは世界の共通言語〜「発信型三方良し」が大きなイノベーションを創出する〜 CSR/SDGコンサルタント笹谷秀光さん

そもそもSDGsとは何なのか? 社会や企業にとってどのような意味を持っているのか?

 そんな基本的な疑問に丁寧に答えてくださったのは、豊富な行政経験(農林水産省・環境省出向・外務省出向など31年間)とビジネス経験(伊藤園で10年間)を活かし、CSR/SDGコンサルタントとしてご活躍されている笹谷秀光さんです。SDGsへの第一歩を踏み出しましょう。

持続可能な社会作りに関する取り組みの集大成

ー最初に2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)とは、どのようなものかお話しいただけますでしょうか?

笹谷さん:少し硬い用語なのでわかりにくいところがあるかもしれませんが、要するに、持続可能性について、現下の地球環境課題から社会課題までを洗い出して、共通言語として取りまとめたものとして理解すればいいでしょう。

17の目標と、それぞれに紐づいた169のサブ・ターゲットによって構成されています。これまでの持続可能な社会作りに関する様々な取り組みの集大成と言える目標だと思います。

ー笹谷さんご自身は、最初にSDGsをご覧になったときどんな印象を持ちましたか?

笹谷さん:私は、国際的な合意として非常によくできた内容ではないかと感じました。その理由の一つとして、SDGsが5つの「P」に集約されていることが挙げられます。

まず、「PEPOLE」「PROSPERITY」「PLANET」。人間、繁栄、地球環境にとって必要な要素が込められています。そして、その3つを達成するために不可欠な「PEACE」(平和)。さらに、それらの複雑な課題を解決するために求められる「PARTNERSHIP」。SDGsは、この5つの「P」で緻密に整理されているわけです。

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ーSDGsの前には、MDGs(Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標)がありました。違いはどのようなところにあるのでしょうか?

笹谷さん:MDGsは、2001年から2015年まで設定されていた目標で、とくに、途上国の課題を浮き彫りにしていました。先進国は途上国を援助する側という位置づけだったのです。けれど、よく考えてみれば、地球課題を解決するにあたって、主体は途上国だけではありませんよね。先進国も含めた全体で挑まなければいけない。たとえば、海の問題に、先進国と途上国の区別なんてないでしょう。

また、貧困についても、途上国のみならず、先進国のなかにも相対的貧困といった問題は存在します。そうしたことから、世界共通で取り組もうという認識が生まれて、ユニバーサリティを持ったSDGsの仕組みに切り替えたのです。

それから、もう一つ大きな違いは、課題解決にあたって、政府や国際機関の役割を中心にしていたMDGsに対して、SDGsでは企業の役割を明確に位置付けました。その二点が大きな変化です。

発信型三方良し

ーSDGsは、世界の共通目標だからこそ、各国で達成度の差が見えやすいという側面もあるかと思います。現状、日本における進捗具合はどうなのでしょうか?

笹谷さん:日本も非常に頑張っているのではないでしょうか。日本は、少子高齢化や地域の過疎化といった先進国特有の課題を多く抱えていますが、解決力も備えています。

とくに、「目標9: 産業と技術革新の基盤をつくろう」は、日本企業の高い技術力と開発力によって、非常に進んでいるし、世界から期待されてもいます。さらに、日本社会にはもともと、和の精神があるので、「目標17: パートナーシップで目標を達成しよう」も根付いている。SDGsの解決を加速させるポテンシャルは極めて高いと思っています。

ーそのポテンシャルをさらに発揮させるためにはどんなことが必要なのでしょうか?

笹谷さん:私はいつも、近江商人の経営理念である「三方良し」(自分良し、相手良し、世間良し)が大切だと言っています。三方のうちの、「世間」の課題を、SDGsだと考えればいい、と。ただし、そこには一つ重大な補正が必要です。

日本には「隠匿善事」という言葉があるように、これまで日本の企業は、「人知れず社会に貢献しても、わかる人にはわかる」と考え、あえて自分から発信しないことが多かった。けれど、グローバル社会において、それではとても通用しません。発信することが重要なのです。ですから私は、「発信型三方良し」という概念を提唱しています。

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ー「発信型三方良し」。日本が培った課題解決力を世界に発信することで、他国にも好影響が及ぶことになりますよね。

笹谷さん:そうですね。日本の持つ強みを発揮することによって、世界中に大きな波及効果が生まれるのではないでしょうか。それに関わるところで言うと、SDGsには、5つの実施原則が定められています。

まずは、「普遍性」。他の国でも応用が利くということが大事です。次に、誰一人取り残さないための「包摂性」。3番目の「参画型」は、様々な方に協力を仰ぎましょう、という意味です。そして、経済と社会問題と環境問題を一石三鳥で解決することを目指す「統合性」。最後に、「透明性と説明責任」。

良いことをしたら、きちんと発信してくださいという意味も含まれています。発信していくことで、同じ志を持った仲間が増えます。そこから、様々な形でイノベーションが起こるわけです。

ビジネスとSDGs

ーご紹介いただいた原則のなかで、「統合性」についてさらにお伺いできればと思います。企業が、社会課題解決貢献活動に取り組むときには、利益度外視で行うことが多いというイメージがあるのですが、ビジネスとSDGsの関係についてはどのようにお考えですか?

笹谷さん:実はそこにSDGsの大きな特色があります。SDGsでは、企業の「本業力」を使って、創造性とイノベーションを起こし、社会課題を解決する、という、本業活用型の活動が推奨されています。そのために、企業の行動指針となるガイドライン「SDGコンパス」も策定されています。これをよく読めば、ビジネスにSDGsを取り込むことのチャンスもリスクも洗い出すことができるわけです。

リスクを回避し、チャンスを掴んで、社会課題を解決しながら、経済価値も上がる。そういった共有価値の創造戦略を深めてほしい、という内容が主軸として整理されています。

これは競争戦略の権威であるハーバードビジネススクールのポーター教授らが提唱する経済価値と社会価値の同時実現を目指す、「共有価値の創造(※)」に使えるもので、私の言葉で言えば「発信型三方良し」の実践マニュアルです。
※Creating Shared Value (CSV)

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ー企業としてSDGsに取り組むことで、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか?

笹谷さん:まずは、企業の評判が上がることで、そのブランド価値は上がるでしょう。それから、ステークホルダーに注目されます。たとえば、いま投資家は、ESG(環境、社会、ガバナンス)に積極的に取り組む会社に強い関心を寄せています。

それから、取引先も、SDGsにきちんと取り組んでいる企業と取引したいと考えるようになるでしょう。また、消費者も、そういう企業の製品を選ぶようになると思います。さらに、人材の面においても、優秀な人が集まるし、人が辞めない会社になることが期待できる。そうした強力な影響があるのではないかと考えています。

ー非常に大きな効果ですね。

笹谷さん:ええ。そして、既存のビジネスをSDGsの体系のなかに位置付けて、その価値をより見える化できるという利点もあります。要するに、その価値を説明するときのストーリーテリングの質が非常に良くなる。なぜなら、SDGsはそれ自体が一つの壮大なストーリーとしてまとまっているから。いいコンテンツを持っている企業は、そこにうまく当てはめていくことによって、全体をわかりやすく整理できるわけです。

また、SDGsと照らし合わせることで、ビジネスに磨きをかけ、進化のきっかけとしたり、新しいビジネスを創出するときのヒントとしても使うことができるでしょう。政府のSDGs推進本部が発表している「ジャパンSDGsアワード」の受賞企業・団体の取り組みは、そういう意味で非常に参考になるかと思います。

若者がつくる「次世代SDGs」

ー第1回ジャパンSDGsアワードの受賞企業のなかに、笹谷さんが顧問を務めていらっしゃる伊藤園さんのお名前があります。具体的にどんな取り組みをされているのかお伺いできますでしょうか。

笹谷さん:昨年暮れに発表のジャパンSDGsアワードは記念すべき第1回でした。12団体・企業が表彰されました。受賞企業の4社では、外務大臣賞のサラヤ、住友化学、特別賞の吉本興業の取り組みがトップランナーとして参考になります。

同じく特別賞の伊藤園は、お客様第一主義の下、「すべてはその一杯のために」という思いを持って、茶畑から茶殻まで、持続可能な生産と消費を目指す活動を行なっています。

たとえば、調達段階の茶産地育成事業(新産地事業)では、耕作放棄地も活用し、農業者や行政と連携して茶園の育成段階からお手伝いし、伊藤園が、その農家でできた茶葉を全量買い上げることで農家経営は安定し、伊藤園は、茶葉の安定調達を確保できる。

そして、地元に雇用を創出し地域活性化につながる。まさに、伊藤園、農家、地域社会の「三方良し」の構造になっているわけです。また、茶殻の一部を使った茶殻リサイクル製品を作って有効活用したり、お茶の販売の流れのなかに、日本の自然や文化を守る活動も組み込んでいます。つまり、調達・製造・販売から経営にいたるまで、あらゆる面でSDGsを意識し、かつ、他の企業にも応用の利く展開を行なっているのです。

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ー企業にとってますますSDGsが重要になってくるなかで、就職前の若者世代にはどんなことが期待されますか?

笹谷さん:若い人の方が柔らかい頭を持っているので、理解が非常に早いと感じています。また、ミレニアル世代及びポストミレニアル世代の方々は、SDGsのような価値観は当然だと思っておられるでしょう。

それを少し体系的に整理した共通言語がSDGsなので、まずは、身近なことを、「これは、SDGs的にはどうなんだろうな?」なんて考えたりするなかで、理解を深めて、自分のものにして活かしていっていただければいいのではないでしょうか。

そして、企業が、SDGsを自分ごと化していく流れのなかで、学生さんたちは、それを主体的に受け止め、自ら提案したり、発信していくことが大切だと思います。仮に理解が少々誤っていたとしても、発信することで周囲からの反応があるので、それを受けて自己修正していけばいい。SDGsを使わないことには始まらないですから。

ー発信と分かりやすさが大事ですね。

笹谷さん:これら企業のSDGs活動を大学生をはじめ若者にわかりやすく伝えることも要点です。幅広い方々(パブリック)にお伝えしていく本来的な意味での「パブリックリレーションズ」が求められます。

私も理事をしている「グローバルビジネス学会」はこの点も重視して、グローバル視点でのビジネスや人材育成に力を入れています。この面では、特に、クリエイティブの役割も期待されます。博報堂では、SDGs の普及・啓発を担う国際連合広報 センターと協力し、2016年に SDGs の公式日本語版アイコンと公共広告映像を制作しています。電通は最近企業向けに「SDGsコミュニケーションガイド」をつくり発表しました。特色のあるところでは、SDGsが最も進んでいると評価の高い北欧のスウェーデン発のクリエイティブエイジェンシー「グレートワークス社」の活動も注目されます。

また、SDGsでは目標4に「質の高い教育」があります。この中には重要な要素として未来を担う次世代育成が入っています。このマイナビ社の「MY FUTURE CAMPUS」で掲げる「ぼくらの未来は、始まっている」という考えはとてもいいですね。学生が将来への支度を始めるための「幅を広げる」「実践経験を積む」という手法はまさにSDGs的です。

ー大学生へのメッセージをお願いします。

笹谷さん:SDGsには17のゴールが設定されていますけど、もしかしたらこれだけで十分ではないかもしれません。若者には、SDGsを自分ごと化するなかで、足りないと思ったら、自分でルールを作るくらいの意気込みを持ってほしい。ルールを使う側から作る側にいくんだ、というくらいのエネルギーを持って頑張ってもらいたいです。

2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックにおいても、調達やイベント運営のルールにSDGsが明確に組み込まれています。また、2025年の万博を大阪に招致するにあたっても、SDGsが重要な要素として考えられています。これからの国際的なイベントはすべてSDGsでルール化されていきますので、日本国民みんなが、SDGsを共通言語として、しっかり自分で理解して、自分ごと化していく必要がある。そういう時期に入ったのではないかと思います。

私としてもSDGsを様々なところで発信し、企業研究会では「笹谷塾」と銘打った年間講座も持っています。SDGsを皆様と深めていき、私自身もいずれ次世代版の新たな目標提案を日本発で行っていきたいです。

そうしたなかで、「発信型三方良し」を実践する若い方たちが生まれることを期待したいなと思います。次世代のSDGsを非常に楽しみにしています。

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ーありがとうございました。

参考URL
笹谷秀光 公式サイト発信型三方良し
企業研究会ESG/SDGs対応フォーラム(笹谷塾)講師

笹谷秀光氏プロフィール
伊藤園 顧問
東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、2010-2014年取締役、2014-2018年常務執行役員、2018年5月より現職。
現在、日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム理事、学校法人千葉学園評議員、千葉商科大学経済研究所一般客員研究員、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、文部科学省青少年の体験活動推進企業表彰審査委員。
著書『CSR新時代の競争戦略』日本評論社・2013年)、『協創力が稼ぐ時代』(ウィズワークス社・2015年)。『 経営に生かすSDGs講座』(環境新聞社・2018年)。

SDGs 基礎用語解説

【ESG投資】
ESG投資の「ESG」は環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字です。従来、投資先の判断基準は企業の財務情報でしたが、近年はそれらに加え例えばその企業の地球温暖化対策や女性従業員の活躍具合などといった要素を考慮した投資が行われており、これらをESG投資と呼んでいます。

【MDGs】
2000年に開催された国連ミレニアム・サミットにて採択された「国連ミレニアム宣言」をもとにまとめられた21世紀の開発分野における国際社会共通の目標(Millennium Development Goals: MDGs)」のこと。極度の貧困と飢餓の撲滅など,2015年までに達成すべき8つの目標を掲げ,その内容は2030アジェンダ(2030アジェンダ)に引きつがれています。

【CSR】
CSRとは”Corporate Social Responsibility”の略称。企業が利益の追求だけでなく事業活動を通して、社会に貢献する責任のこと、企業の社会的責任を意味します。企業として自社の利益を最大化することとあわせ、さまざまなステークホルダーや社会の利益を考慮した活動していくこと。