ビジネスは世の中の変化を映す鏡です。社会のしくみや暮らし方、生活者のニーズの変化に応じてサービスや製品のあり方も変わっていきます。 このコーナー「変わるスタンダード~モノ・コトのあり方を変える企業~」では、マーケットの変化を敏感に察知して、新しいプロダクトやサービスを提供している企業を取材。その狙いや背景にある世の中の変化を描きます。

【JINS】400年間イノベーションのなかったメガネという存在を変えていきたい。ーJINS 石井建司さん

SPA(製造小売業)は、メーカーが製品を販売店に売ってもらうのではなく、自社でショップを持ち、商品の企画製造から販売までを一手に行う業態です。製品コストを抑えられ、お客様の反応を商品に取り込むマーケティング力やブランド発信力で有利と言われます。
GAPやファーストリテーリングなどのアパレル業界で注目されたこの手法をメガネ業界で行ったのがJINS(ジンズ)。

それまでのメガネ業界の常識を打ち破る低価格や、視力矯正以外を目的とする「機能性アイウエア」市場を切り拓き急成長を続けています。最近は「世界一集中できるワークスペース」の開設など、メガネとは離れた分野にまで手を広げているのはなぜなのか?底流にある考え方とは?コーポレートコミュニケーション室の石井建司さんに話を伺いました。

その成り立ちからメガネ業界のスタンダードを変えたJINS。

ー御社がメガネ業界においてSPAを始めたのはどのような理由があったのでしょうか。

石井さん:弊社は2001年からメガネ業界に参入していますが、当時のメガネの価格は日本国内だと3~4万円が主流でした。

ところが海外、たとえば韓国ではそれが5千円。どうしてそんなに差が付くのかと調べると、日本ではメーカー出荷価格から流通段階でいくつもマージンが発生していたんです。

自分たちで作って販売するSPAにすれば同じものがもっと安く提供できる、というところが一番大きいです。また当時SPA業態のユニクロさんがフリースで大成功していたことも追い風でした。

ーそういう意味では成り立ちから当時の業界のスタンダードを変えているわけですね。

石井さん:そうですね。価格自体もそうですが、お客様のメガネの買い方、使い方を変えたと言えます。以前は一本買ったらそれきりでしたが、価格を下げたことで複数のメガネを持ってファッションや気分に合わせて変えていけるようになりました。

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メガネ業界の「不満の四重奏」を変えることでお客様の高い支持を手中に

ー後発参入にもかかわらず、販売本数では国内でNo.1にまで成長されました。

石井さん:お客様に支持された理由としては、それまでメガネ業界にあった「不満の四重奏」を変えることができたからと弊社では考えています。

1つ目は先ほどの価格。2つ目がメガネを渡すスピードです。以前は一週間程度待たされていましたが、当社はレンズを大量にストックして、その日のうちに出来上がるようにしました。ファッション並みに気軽に購入できるようなスピード感に変えたと思います。3つ目が店舗の設計。入りにくい雰囲気を変えて陳列も気軽に手に取れる設計にしました。最後が商品の品揃えです。

SPAですからスピーディにいろんな商品が作れる。当時は若年層向けのデザインは多くありませんでしたが、流行に合わせた商品をすぐに作って市場に出せたのが支持されたと考えています。

400年間同じ事を続けてきたメガネ業界。メガネにできることは、もっとあるはず。

ーその後御社では「JINS PC(現JINS SCREEN)」で、視力矯正を目的としない機能性アイウエアという新市場を切り拓きました。どうしてこのような発想にいたったのでしょうか?

石井さん:メガネ業界には大きなイノベーションが400年間起きていないと言われています。でもメガネにできることって、もっとあるんじゃないかという思いが私たちにはありました。それが機能性アイウエアの開発へとつながっています。

その最初の商品がブルーライト軽減を目指したJINS PCでした。開発のきっかけは、社長の田中が、パソコンを使っていて目が疲れると知人の医者に相談したら、ブルーライトのせいだろうと言われたところからです。その時初めてブルーライトという存在を知ったのですが、そういうものが出ているのなら、メガネをかけてメガネで守ろうという発想で開発につながっていきました。

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ーサングラスは従来からある機能性アイウエアだと思いますが屋外でかけるものですね。視力矯正以外で室内でメガネをする習慣はあまりなかったと思いますが反響はどうでしたか?

石井さん:誰もブルーライトというものを知らない状態でしたので、最初はあまり売れませんでした。そこでまずブルーライトを知ってもらうところから活動しようと、IT系の企業に福利厚生の一環として導入してもらいました。ITリテラシーの高い人に効果を実感してもらえば、やがてその噂が広まっていくだろうという目論見です。

やがてその狙い通り商品も売れ始めて、それ以降、眼の周りを保湿するJINS MOISTUREや、花粉対策のJINS花粉CUTなど、機能性アイウエアを次々に投入していきました。

悩んだときはその道のプロに聞く。このスタイルが画期的な新商品の開発につながった。

ーそうして自分自身を見るメガネJINS MEME(ジンズ・ミーム)の開発になるのですね。

石井さん:はい。これには特に外部の力もお借りしています。当社では、“何かに悩んだことがあったら、その道のプロに話を聞きなさい。プロが同じ問題を何十年も考え続けているからその方が絶対に早いし、いいものができる”という文化があります。

JINS MEMEができる時も、新しいメガネを作りたい、ということを漠然と模索して、社長の田中などがいろんな方に相談していたんです。

そこで脳トレで有名な東北大学の川島教授に話を持っていったところ、メガネって実は下着の次に身に着けている時間が長いんですと。それなら人間の日常生活のデータを取るデバイスとして使ことができれば先制医療の分野でも役立つのではという話になり、それがきっかけで開発が始まりました。開発に4年半ほどかかりまして、発売は2015年11月でした。

ーこちらの反響はいかがでしたか?

石井さん:運転中の眠気を教えてくれるとか、ランニング中の自分の体の動きがわかってケガの防止に役立つとか、いろいろ機能があったんですが、一番反響があったのが集中力が測れるという機能だったんですね。

当時、世の中で働き方改革ということがすごく言われていて、残業時間以外に変えるべき定量的な基準がないという背景があり、集中力が測れるならそれを改革の新しい指標にしたいとかなり反響をいただけて、そこから働き方改革に向けた集中のサービスを法人向けに展開してきました。

おかげさまで、経産省等が開催している「HR-Solution Contest」という、人事・労務上の課題を解決する技術のコンテストでも、2017年のグランプリをいただいたのですが、これが次の転機につながるんです。

世界一集中できるワークスペース作りへ

ーどういうことでしょうか?

石井さん:受賞後に、さぞJINSの社員さんは集中して仕事をしているんだろうと言われました。そこはちゃんと計測していないなということで計測をしたら、ウチの社員はなかなか集中できていないという結果になりまして(笑)。

何が悪いのかいろいろ調べると、オフィス環境に問題がありそうだという結果になりました。現在のオフィスをつくったのは2015年ですが、その当時、コミュニケーションしやすいオフィスが望ましいと言われていたので、当社も大変開放的でフリーアドレスのコミュニケーションの取りやすいオフィスだったんです。

ーフリーアドレスでオープンなオフィスって最近増えていますね。

石井さん:確かにコミュニケーションは取りやすいのですが、コミュニケーションの結果、集中が減ってしまっていたんです。集中とコミュニケーションって相反するもので両立は難しいんですね。

そこでJINS MEMEの開発で蓄積した集中のためのノウハウを活かしたワークスペースを作ろうということになり、いろんな企業さんも巻き込んで作ったのが「世界一集中できる場を目指し進化し続けるワークスペース」Think Lab(シンク・ラボ)です。環境音や室内のデザイン、椅子の高さや人の目線の角度、提供する飲食など、すべて集中やリラックスのためによいとエビデンスのあるものを集めています。

自社のために必要で作り始めたものですが、作っている過程でいろんな企業さんから、うちも使いたいという要望をすごくいただいて、いまは一般の方にも会員制でご利用いただける場所になっています。

すべての源にあるのが「Magnify Life」というビジョン。

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ーメガネの話からオフィスづくりの話まで広がりました。背景にある考え方は何なのでしょうか?

石井さん:これまでにお話ししたことの基本はすべて当社の掲げるビジョン「Magnify Life」から来ています。直訳すると人生を拡大する、ですが、アイウエアを通して生活を豊かにしていきたいということです。400年間イノベーションのなかったメガネという存在を変えていきたいんです。この目標のために様々なサービスや商品が生まれてきている、といっていいですね。

ー御社の今後の展望について、お聞かせいただけますか?

石井さん:まだ具体的にお話しできる内容があまりないのですが、一番言えることは、私たちは、事業ドメインを「メガネ」だと思っていなくて、「見ること」が事業ドメインだと思っています。ですからそこに付随する商品やサービスが、本当にこれからも出ていくだろうとは思います。

メガネをかける目的は、たとえば老眼鏡などでは、手元のものをよく見るためですが、それはさらには作業の効率を上げるためですよね。そう考えるとメガネ屋がワークスペースを作ることも、そんなにおかしなことじゃない。そんな調子でメガネで生活の質を上げていければと考えています。

自分にしかできない仕事をするために、「集中して」自分の知見になるものを貯めていこう

ー現在のビジネスにおいて、ビジネスパーソンにはどういった資質やスキルが求められると思われますか?

石井さん:個人的な見解も入っていますが、集中力だと思います。集中ってその人のポテンシャルを表していると思うんです。何か一つ経験した時に、集中している人って100どころか120くらい得てくるんですね。集中していない人だと70くらいしか得られない。その積み重ねが仕事や人生のアウトプットを決めていくんですね。

というのは、何か新しいことをする時は、基本的にそれまでの経験から何かと何かを掛け合わせて対応していくと思うのですが、自分のものにしていることが多い人の方が、新しいものを生み出すことができますし、より深く一つ一つの経験をしている人の方が、より大きいインパクトを与えられるものを作れる。その結果として、その人にしかできない仕事ができるようになると思うんです。

AIの進化が言われている中、右から左に流していく作業は減っていって、人間にしか、その人にしかできない仕事が必要とされてきます。ですからその一番基礎になるものを、集中して、たくさん、蓄えておいて欲しい。
別に仕事や勉強に限らないと思いますので、何かに集中して自分の知見になるものをひたすら貯めていくことが大切です。

ー集中という点で見ると、現代の環境はまったく適しておらず、常に不調といえる。

ー一つの体験からより深く得るために集中力を高める努力をしておこうということですね。

石井さん:集中のコンディションを不調、普通、好調の3段階で考えると、そもそも現代人って、集中できない環境にい過ぎて、常に不調なことが多いんですね。人間は集中するのに23分かかるって言われているんです。でもいまの環境って、11分に1回は、見なきゃいけないメールやチャットやラインが来てしまうんですよ。なので、常に不調な状態にいるんです。

学生のころから集中できない環境がつねに当たり前になっている世代だと思いますので、まずはそもそも自分はちゃんと集中できているのかを考えるところから始めてみてはどうでしょうか。

考えて、どうやったら集中できるのか、自分にあった方法を探して欲しいですね。それが見つかったら自分で集中する時間を作っていき、まずは普通の状態に持っていけるようにする。そういう順番です。

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