「褒める」は最高のコミュニケーションツール

日本人は褒め下手が多いと言われています。しかし、上手に人を褒めるコツを身につければより円滑な人間関係を築くのに役立つでしょう。的確に褒めることができれば、家族や友人はもちろん初対面の相手との親密度を深めるのにも役立ちます。教育の世界でも、子どもは褒めて伸ばすのが大事と言われています。

上手に褒めることを心がければ、おのずと人の長所・美点に注目する習慣が身につきます。積極的に人を褒めることで人間関係がスムーズになるのはもちろん、人との関わりがもっと楽しいものになるでしょう。人の長所に目を向けることで自然と自分の長所にも目がいくようになり、自分自身のことももっと好きになれるかもしれません。

「ほめる」の意味と使い方

「ほめる」を漢字で書くと、「誉める」「褒める」のいずれかになります。両者とも同じ意味で使われることが多いですが、厳密には以下のような違いがあります。シーンに合わせて、上手に使い分けましょう。

誉める

「誉」という漢字は「ほまれ」を意味し、多くの人から良い評判を得たりもてはやされたりすることを指します。「誉める」はある人が持つ高い能力や成し遂げた偉業についてほめたたえるという意味合いが強く、「名作の誉れ高い」「秀才の誉れ高い」といった表現もよく使用されます。

なお「誉める」は常用漢字外表記なので、公的な文書では「褒める」が使用されます。

褒める

「褒」という漢字は「良い行いへの報い」を意味し、「褒める」は相手の行いに対して良い評価を与えることを指します。良い行いをした子どもに与える「ごほうび」の由来も、目上の者が目下の者に与える「褒美」です。そのため、「褒める」を目上の人に直接使うのは失礼に当たります。

今回のテーマは個人対個人のコミュニケーションツールとしての「褒める」なので、以降はこちらの表記を使用します。

人は褒められるとモチベーションが上がる?

子どもの頃、テストで良い点を取って先生や親に褒められたことで「もっと勉強をがんばろう!」とやる気がわいてきた経験はありませんか?これと同じように、例えば学業のモチベーションを上げたいなら自分の勉強の成果を誰かに褒めてもらうことが有効です。なぜ有効なのか、それは承認欲求が満たされるからです。承認欲求とはどういうものでしょうか。

承認欲求とは

承認欲求とは、人間が本能的に持っている「他人から認められたい・尊敬されたい」という欲求です。SNS上でコメントや「いいね」をたくさんもらったり、自分が作った料理を美味しいと喜んでもらったりすることで気分が良くなるのは、承認欲求が満たされるためです。もし承認欲求が満たされないと、劣等感・無力感・焦燥感などが現れます。

心理学者マズローの欲求5段階説によると、人間は生理的欲求(生命維持)、安全の欲求(危機回避、安全・安心)、愛と所属の欲求(集団帰属、他者との関わり)が満たされると、次に承認と尊敬の欲求が芽生えます。承認と尊敬の欲求が満たされると、最後に自己実現欲求(自分の能力を活かしたい、創造的活動がしたい)が芽生えます。

つまり、人間は生理的欲求・安全欲求とともに承認欲求が十分満たされてはじめて、自分自身をより成長させようという自己実現欲求に従って行動できるようになります。

褒めることは最強のコミュニケーションツール

人を褒めることは「あなたのことをちゃんと気にかけていますよ、あなたに対して好意を持っていますよ」と伝えることでもあります。褒めることによって相手への好意を示せば、相手もおのずとあなたに好意を持ってくれるでしょう。

返報性(へんぽうせい)

人から価値のあるものをもらったり好意・自己開示などを受けたりしたとき、相手に対して同じようにお返しをしなければならないと感じる心理法則を「返報性」と呼びます。

例えば、あなたの目の前に2人の人(Aさん・Bさん)がいるとします。2人の年齢・性別・容姿などはほぼ同じですが、Aさんは表情や話し方などからあきらかにあなたを好いていることがわかります。反対に、Bさんはあからさまにあなたを嫌っていることがわかります。この場合、あなたはAさんとBさんに対してどんな感情を持つでしょうか。

おそらく、多くの人は無意識のうちにAさんに好意を持ち、Bさんをあまり好きでないと感じるでしょう。あなたに対して好意を表したAさんを好ましく感じるのが好意の返報性、敵意を表したBさんを嫌いだと感じるのが敵意の返報性です。

返報性の法則をビジネス戦略に利用した代表的な例が、スーパーの試食販売です。試食をした人に対して「無料で食べさせてもらったから、買わないと申し訳ないな」と思わせる効果があります。

上手に褒めるポイント

いくら褒めるのが良いといっても、ただやみくもに褒めればいいわけではありません。ポイントを踏まえて上手に褒めることで、より高い効果を得ることができます。

褒めたいポイントを具体的に伝える

例えば「あなたは頭が良いね」というような褒め言葉は、目の前の相手だけでなくいろいろな人に当てはまってしまいます。このような言葉をかけても、相手に「この人は誰にでも同じようなことを言っているのではないか」と感じさせるだけでしょう。

人を褒めるときは、相手に「この人はちゃんと自分のことを見てくれている」という安心感を与えることが大事です。「こんな難しい問題をすらすら解いてしまうなんて、あなたは本当に頭がいいね」というふうに、その人だけに当てはまるポイントに具体的に触れながら褒めましょう。

本人にとって意外なところを褒める

相手の短所やコンプレックスを立派な個性として評価することで、長所を褒めるよりもさらに大きなインパクトを与えることができます。たとえば引っ込み思案な人なら「思慮深く慎重」、頑固な人なら「意志が強く、ちょっとやそっとではへこたれない」というふうに、長所として言い換えて褒めてみましょう。

また、本人にとっては当たり前な部分や他人から見過ごされやすい部分を褒めるのも効果的です。「時間や締め切りをきっちり守る」「いつも整理整頓が行き届いている」などのように、目立たないけれど学業や家庭生活をスムーズにするために欠かせない美点にも目を向けてみましょう。

褒めるときは大勢の前で?それとも1対1で?

しばしば「誰かを褒めるときは大勢の前で褒めるのがよい」と言われることがあります。しかし、大勢の前で褒めることが良いかどうかはケースバイケースです。例えば授業中に教授が特定の学生を褒めることで他の学生にも「自分も褒めてもらいたいから頑張ろう」と感じさせ、全体のモチベーションアップにつなげられるかもしれません。褒められた本人も、人目が多い分だけ気分が上がるかもしれません。

しかし注目を浴びるのが苦手な人やプレッシャーに弱い人が大勢の前で褒められると、かえって緊張してしまうでしょう。また、チーム内の人間関係が良くない場合は「なんであの人ばかり褒められるのだろう」と周囲から嫉妬されてしまう恐れもあります。人前で褒めることで得られる効果は、褒めたい相手の性格やチーム全体の人間関係などに左右されます。

これに対して、1対1のときに褒めるとお互いに素直な気持ちを伝えやすくなります。また「この研究は君でなければあんなにうまくできなかっただろう」というふうに相手を少し特別扱いした褒め方も、1対1だからこそできる褒め方です。

褒める時の注意点

褒め方を間違えるとかえって相手をがっかりさせてしまったり、相手に良くない印象を与えてしまったりすることもあります。言葉の微妙なニュアンスによって相手の受け取り方が大きく変わることもあるので、発言する前によく注意しましょう。

本人の努力・センスと関係ないことを褒めるのは避ける

「美人だね」「背が高いね」などのように、本人の努力やセンスとは関係ないことを褒めるのは控えましょう。もちろん、こうしたことを褒められて素直に喜ぶ人もいます。しかし異性に対して容姿などをあからさまに褒めすぎると、下心があるのではないかと勘ぐられることがあります。

場合によっては、誤った褒め方がセクハラに該当するとして思わぬトラブルに発展する恐れもあります。余計なトラブルを避けるためにも、異性の外見や容姿をむやみに褒めるのは控えましょう。

他人と比較して褒めるのは避ける

「Aさんよりずっとすごい」というように、他人と比較して褒めるのも避けましょう。目の前にいる相手を褒めているつもりでも、Aさんの悪口を言っているのと同じになってしまいます。褒めた相手にも「この人はうまいことを言っているけれど、他の人の前では自分の悪口も言っているのでは」と勘ぐられてしまうかもしれません。

わざとらしい表現になっていないか注意する

非常に素晴らしい相手に対しては、いくら褒めても褒めきれないと感じるかもしれません。しかし褒め方が大げさすぎたり「すごい」「えらい」などの単純な言葉を繰り返したりするだけだと逆にわざとらしくなり、歯が浮くようなお世辞に聞こえてしまいます。

すでに触れましたが、わざとらしく聞こえないよう褒めるコツはなるべく具体的な表現で褒めることです。「その服、よく似合っているね」よりも「その服の色、今日のメイクによく似合っているね」のほうが伝わりやすくなるでしょう。

また、主語を「あなた」ではなく「私」にするのも効果的です。例えば「あなたはおもしろい人ですね」だと、こちらの主観で一方的に相手を評価しているようなニュアンスが強くなります。「あなたはおもしろい人だから、あなたといると(私は)楽しいです」と表現すると、こちらの素直な気持ちがよりストレートに伝わるでしょう。

上手に褒めて、コミュニケーション能力を上げよう

人は、本能的に「他者に認められたい」という承認欲求を持っています。他者から褒められて承認欲求が満たされると、おのずとモチベーションも上がります。また、人を褒めることはその人への好意を示すことでもあります。人を褒めて好意を示すことで、相手からも好意を持たれやすくなるでしょう。

上手に褒めるためには、まず褒めたいポイントを具体的に伝えることを心がけましょう。また本人や他の人が気づかないようなポイントを褒めること、主語を「あなた」ではなく「私」にして素直な気持ちを伝えることも効果的です。

今回のテーマは褒めることですが、コミュニケーション能力を上げるにはまず相手を好きになる努力が大切です。気持ちが伴わないままテクニックばかりにこだわっても「この人に良く思われたい」という自分の欲求を相手に押し付けるだけになってしまうでしょう。相手に興味を持って相手の美点を心から好きになることこそ、褒めることの第一歩と言えるでしょう。

■参考
廣瀬 清人ほか「マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈」〔聖路加看護大学紀要 No.35、2009年〕
http://arch.luke.ac.jp/dspace/bitstream/10285/2806/1/kiyo35-2008028.pdf

安藤 清志「現代の職場と社会的影響の方略」〔日本労働研究雑誌422号、1995年〕
http://db.jil.go.jp/db/ronbun/1995/F1995100948.html
http://db.jil.go.jp/db/ronbun/zenbun/F1995100948_ZEN.htm

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