ビジネスは世の中の変化を映す鏡です。社会のしくみや暮らし方、生活者のニーズの変化に応じてサービスや製品のあり方も変わっていきます。 このコーナー「変わるスタンダード~モノ・コトのあり方を変える企業~」では、マーケットの変化を敏感に察知して、新しいプロダクトやサービスを提供している企業を取材。その狙いや背景にある世の中の変化を描きます。

【ZOZOテクノロジーズ】いまは言葉や音楽よりも、技術が人の行動様式を変える時代。ーZOZOテクノロジーズ 代表取締役CINO 金山裕樹さん

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」。人気ブランドの服が手軽に買えることから多くの利用者に支持され、ファッション専門のECサイトとしては日本最大級の規模を誇っています。

その「ZOZOTOWN」を運営するZOZOが2017年に発表し、大きな反響を呼んだのが「ZOZOSUIT」です。ドットマーカーの付いたスーツを着て、スマートフォンで360度撮影するだけで、身体の各部の採寸ができるというこの計測スーツは、試着ができないファッション通販サイトの弱点を乗り越える画期的な解決策として注目を集めています。

同グループの技術者が集まるZOZOテクノロジーズの代表取締役CINO 金山裕樹さんにお話を伺い、ZOZOSUITの開発の背景、技術にかける思いについて語っていただきました。

ファッション通販の弱点を技術で乗り越えたZOZOSUIT。

ーZOZOSUITについてうかがう前に、金山さんのZOZOテクノロジーズと、ZOZOはどのような役割分担になっているのでしょうか?

金山さん:ZOZOはZOZOTOWN出店ブランド様との交渉や営業、マーケティング、カスタマーサポート、物流、プライベートブランド「ZOZO」の企画などを、ZOZOテクノロジーズは、ZOZOTOWNサイトやアプリのデザインと運用改善、R&D(研究開発)を行っています。ただサービスの創出に関してはZOZOと緊密に協同していますので、今日はあまり区別せずにお話します。

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ZOZOSUITは数ある解決案の中の一つだった。

ーZOZOSUITの開発や背景についてお聞かせいただけますか?

金山さん:我々ZOZOは、創業以来ずっと、試着ができないオンラインだけで服を販売してきました。その経験から、サイズというものがやはりすごく大事だということを、データからも感覚からも認識しています。『思っていたサイズと違ったから返品した』という体験は、お客様をとてもがっかりさせてしまいますし、顧客満足度の低下やコスト増にもつながります。採寸の問題を解決することは悲願でした。

そこで、「どんな体型の方にもぴったり合った服をお届けするプライベートブランド」の構想が生まれ、その実現のために我々はあらゆる方向でさまざまなアイディアを試し試行錯誤を重ねてきました。ZOZOSUITのアイディアはそうしたプランの中の一つが具体化したもので、いきなり出てきたわけではなく、あまりエピソードのようなものもないんです。

ーZOZOSUITというものができてしまうと、他に採寸の方法ってあるのかなと思ってしまいます。

金山さん:ありますよいっぱい。自分で測って登録していただくこともできますし、これは実際に社内で検討されたかどうかは別として、採寸ステーションみたいなものを作って来てもらうとか……。

そんな形で様々なプランが出されて検討されていき、採寸スーツというアイディアが現実味を帯びてきたのでプロジェクトチームが発足しました。ZOZOSUITがまだ世の中に発表されない段階でのトライ&エラーも社内でかなりやっています。

ZOZOSUITへの反響に対応するために行った仕様変更の決断。

ーそれでZOZOSUITの発表になるわけですね。反響はいかがでしたか?

金山さん:おかげさまで大変な反響で、ZOZOSUITは現在100万以上の注文をいただいて、そのうちの半数ぐらいをお客様の手元にお届けできている状態です(7月取材時。現在は注文後すぐに配送が可能)。昨年11月の発表直後に関しては、商品が届かないと本当にお騒がせしてしまいました……。

当初のZOZOSUITは全身に張り巡らされた伸縮各センサーによって計測する仕様だったのですが、大量生産には向かず、大きな反響に、なかなか生産が追いつかなかったんですね。

そこで当初の発表とは違うものになるけどZOZOSUITの改善に踏み切った方がいいだろうという意思決定をしまして、より簡便で、かつ高精度な新しいバージョン、ドットマーカーのついた現在のスーツを提供し始めました。これが4月のことです。

ファッションの人を笑顔にするポテンシャルと、テクノロジーの変える力を信じている。

ードットマーカーによる画像認識で3D的に採寸をするというのはいかにも現代的なテクノロジーですが、御社サイトには「70億人のファッションを技術の力で変えていく」というミッションが掲げられています。これはどういう意味でしょうか?

金山さん:人はみな毎日服を着ていますが、服を選ぶ時や着ている時に、ワクワクする人ってどれだけいるでしょうか?むしろ、似合っているかなとか、TPOにふさわしいかなとか、何かしら服に不安を抱えながら一日を過ごしている方が多いのではないでしょうか。

こんな不幸なことはない。我々はこれを変えたいと思っています。服ってもっと人を笑顔にしたり、気分を上げたりするポテンシャルがあると思うんです。

そしてもう一つ我々が信じているのが、テクノロジーの力です。ZOZOテクノロジーズの人間はほとんど、テクノロジーによって人生が何かしらプラスに変わっています。プログラミングとの出会いだったり、アプリで何か新しいことを始められたりとか……。

そのプラスの体験や、テクノロジーで何かを変えられるという希望を、我々が取り扱うファッションの力を活かすことで、皆さんに少しでも幸せを感じて欲しい。毎日の服を着るという行為から。これがこのビジョンに込められた思いです。

2018年に発売された新バージョンのZOZOZUIT

過去には言葉や音楽が人の行動を変えてきた。いまは技術が人の行動様式を変える時代。

ーファッションという感覚的なものの課題を、技術で変えていこうという視点がユニークだと思うのですが、なんで技術なんでしょうか?

金山さん:そこは、我々がそれを信じているとしか言いようがないですが、前提として、いまは技術が人の行動を変える時代になってきているという認識があります。過去にも、人の習慣や考え方、生活を変えるムーブメントというのが起きていますね。例えば20世紀だったら、キング牧師やビートルズなど。彼らは演説や音楽で、人々の考え方に影響を与えてきました。

いまはどうかというと、人々の意識や生活様式を変えているのは、技術から生まれたものだと思うんです。象徴的なのが、スマートフォンやインターネット、アプリ、SNS…。技術が人の行動を変えていますよね。我々の活動もその一つに並んで、先ほどのビジョンを実現できるよう努力しています。

他人にないものを自分が与え、他人の優れたものはもらって、ギブ&テイクしながらポテンシャルを最大限に発揮する。

ー御社や御社のエンジニアなどが、サービス開発において大切にしていることはなんでしょうか?

金山さん:一番大事なのはお客様のためになるものを作ること。我々、ZOZOでは、お客様を友達のように考えようという文化があります。友達に酷いものは渡しませんよね?それくらいお客様に対して親身に考えて行動しようということです。

他には、会社の仲間ときちんとコラボレーションしようということ。この規模になるとシステム開発やアプリの開発は一人ではできません。自分にあって他人にないものは与えて、他人の優れたものは吸収して、ギブ&テイクしていく。我々は大きな会社ではないので、コラボレーションを上手に行ってポテンシャルを最大化させるのはすごく重要です。

テクノロジーをベースに、ファッションに関する3つの革命をすすめていきたい。

ー今後の展望について、お話いただけますか?

金山さん:当社は、「ZOZOTOWN」の他にも、「WEAR」という着こなしのファッションコーディネートアプリも作っています。ダウンロード数1,100万以上、コーディネート投稿数800万枚の、たぶん日本で一番利用者の多いファッションのアプリです。

まずはこうした「ZOZOTOWN」や「WEAR」の機能追加や、ZOZOSUITのさらなる精度向上など既存のサービスの改良が第一なのですが、これらと同時にファッションに関する3つの革命をすすめていきたいと考えています。具体的には、服の「買い方革命」「選び方革命」「作り方革命」の3つです。

買い方革命というのは、すでにZOZOTOWNで推進していること、オンラインで気軽に服を買えるように変えようということです。20年前、服はネットで買うものではありませんでしたが、いまではかなり利用者が増えています。着実にこの変化は進んでいますから、さらに後押ししていきます。

もう一つは服の選び方革命。選べることはよいことだと思いますが、膨大な数の中からお気に入りの一つを見つけ出すのは大変なことでもあります。そこで新たに「おまかせ定期便」というサービスを始めました。好きな色やアイテムなど自分のファッションの好みに関するアンケートに答えておくと、1~3ヶ月のご希望のタイミングに1回、専門の当社スタッフが服をコーディネートしてお送りするサービスです。気に入らなかった服は送料無料で返品も可能。こうした選ぶ手間や悩みをなくすことをやろうとしています。

最後に服の作り方革命。たとえばニットを全く人が作らずに、ZOZOSUITで採寸されたデータを送って、自動編み機が1着40分くらいで編み上げるとか、服を機械にデザインさせようという試みも行っています。

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金山さん:これら3つの革命の基盤はすべてテクノロジーですので、我々はどんなテクノロジーを活用して、何を生み出すべきなのかと言うことを日々考えています。

もしかしたら将来、自分の採寸にぴったりあった、オーダーメイドの服をコンビニで受け取れる、なんて時代も来るかもしれませんし、もし実現するならそれをやるのは我々でありたいです。

ファッションを、水道やガス、携帯電話に並ぶようなインフラのレベルまで持っていきたい、それが我々の野望です。

知ることで満足していては人と差が出ない。行動に移して体験を自分のストーリーに。

ーこれからのビジネスパーソンにはどういった資質やスキルが求められると思いますか?

金山さん:ネットで検索すれば何でも出てくる時代ですから、知識がある事自体はもう価値ではない。一番大事なのは知識や調べた情報を元に、自らで行動して、その体験をいかに自分のストーリーとして語れるかだと思います。

いま、ネット検索して知ることで満足してしまって、実際には何もしていないという人がすごく多いんですね。しかもその情報源はだいたい同じサイトだったりするので、人と少しも違いが出ない。同じ情報源からでも、興味の持てることを実際に行動に移して、体験を元に、みんなが知っている情報にプラスアルファして話をするということが、他者との違いをつくり、個人の重要な価値になってくると思います。行動力が圧倒的なスキルである、とすら言えると思いますよ、いまの時代は。

ー情報を山ほど手にできてしまうだけに、満腹になってしまうのかもしれませんね。

金山さん:プログラミングの世界で「銀の弾丸はない」という言葉があります。やっかいな問題をそれ一つで解決できる都合の良い方法なんて存在しないという意味ですね。これはまったくその通りです。

最近はネットで調べて最短経路で銀の弾丸を手に入れて済ませようという傾向を感じるのですが、実際に行動しないと物事は何も変えられません。自分で実際にいろいろ行動して、フィットするものを取捨選択することで、自分なりの視点や解決策が身についてくると思います。

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