みなさんは、自分の将来を考えるとどんな気持ちになりますか?キラキラしている人の姿を見ては、何だか自分だけ置いていかれているような気持ちになるなんてことも・・・。
「29歳までの道しるべ」では、現在いろいろな舞台で活躍する大人たちを取材し、彼らの20代のお話を聞きました。
いまだからこそ言える“少しでも人生を前に進めていくためのヒント”です。

自分が感じた違和感を大切にしてきた ー未来食堂 小林せかいさん

小林せかいさんは、神保町駅のほど近くで「未来食堂」という名の一風変わった食堂を営んでいます。
この食堂は、毎日1種類の定食メニューしかない代わりに、その日の食材を使ってお客様の体調や気分にあわせた一品を提供する「あつらえ」というシステムがあったり、50分のお手伝いで一食もらえる「まかない」という制度ががるお店。

「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」というコンセプトをもつこの食堂を開業した小林さんの前職はシステムエンジニア。さらに、食べること自体にはさほど興味がないと言いきる小林さんは、どんな20代を過ごし、未来食堂の開業にたどり着いたのでしょうか。

そこには、彼女が感じてきた違和感や、自分が嫌だと感じた気持ちを大切にする、小林さん独自の進路選択の感性と人生に対する視点がたくさん詰まっていました。

〜20歳 学校や家庭とも違う、ありのままの自分を受け入れてくれた場所

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ー小林さんのブログを拝見すると、「お店を持つんだ」と決めたのは15歳とありました。そうした若い頃の夢が、その後の進路選択にどう影響を与えたのか、とても気になります。

小林さん:お店を持つというのは、夢というよりも、「いつかきっと持つんだろうな」という感覚。「人間、いつかきっと死ぬんだろうな」とかと似た、「当然、そうなるんだろうな」という感覚です。

15歳で初めて一人で喫茶店に足を踏み入れた時、学校の自分ともお家の自分とも違う、「自分がそのままあり、それを受け入れられた経験」が大きかったのだと思います。

その後、高校の教室でこっそり珈琲ブースを作ったり、大学でも学内で喫茶店を出店したり、人を受け入れる場所を作る小さな実験を重ねていきました。ただ、それが直接、大学進学や就職に影響を与えることはなかったですね。

ーブログでは、高校生の頃に進路やいろんなことがわからなくなって2ヶ月ほど家出をしたとも書いてありました。

小林さん:親元どころか全てから断絶され、自分でアパートを借りて新しい生活も始まり、「自分はこのまま繁華街の裏側で死んでいくんだろうな」と疲れ切った頭でぼんやり考えていた時期がありました。

その時も、偶然居合わせた人たちとテーブルを囲み、「いただきます」とみんなで言った瞬間の衝撃に救われたんです。「ああ、こうやって人とともにいることが、やっぱり自分には必要なんだ」と。

その日の夜に「家に帰る」と電話しました。でも、そうした経験も「自分が飲食店をやろう」という直接の目標にはつながらなかったですね。だから、大学は算数が好きだという理由で数学科を選択。受かるところだったらどこでも……。という普通の高校生と同じような進路選択でした。

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20歳〜22歳 自分の気質と近しい人に会うようにしていた

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ー大学に入学してからはどんな風に過ごされたんですか?

小林さん:数学の勉強は自分には向いてないと思いました。よく卒業できたなという感じです。就職に関しても特に考えてなかったです。進路先のIBMもたまたまご縁があって、内定をいただいたのでいこうかなと決めました。

ーなるほど。でも、その一方で学内に出店した喫茶店は人気で、他大学にも出店することになったと伺いましたが、そのまま起業してしまおうといった考えは持たなかったんですか?

小林さん:そうですね。大学生の頃は、自分の持っているスキルが社会的にどう活用できるだろうといった考えはなかったですね。自分の周りに学生起業家のような人もいませんでしたし。

この頃もあくまで「いつかお店を持つんだろうな」といった感覚です。ただ、いつかお店を出すだろうし、という感じで、学生時代は歌舞伎町に住んで、毎晩いろいろなお店に行っていました。

そうしたら、20歳の誕生日を迎えた時に、あるバーのマスターから「うちで働かない?」と誘われ、アルバイトをすることになりました。

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ー「お店を持つことは夢や目標ではなかった」と言いつつ、その道につながる行動はしていたんですね?

小林さん:自分の気質と近しい人と会うようにはしていました。私でいえば、お店を持つような気質のある人と交流したいなという思いは持っていましたね。

ー今、小林さんのおっしゃった“気質”の話って、すごく学生にとって参考になると思うんです。「自分は何に向いてるんだろう」「自分はどんな気質なんだろう」と悩んでいる学生は多くいると思うので。

小林さん:アドバイスになるかわかりませんが、気質って自分と同じような属性の人たちといると見えづらいのかなと思います。大学や近しいコミュニティの中にいると、社会から見ると特異なことだとしても、そのコミュニティの人たちにとっては普通だったり。

なので、「自分は何に興味があるのかな」とか「自分ってどんな気質なんだろう」と悩んでいる学生がいたら、今いるコミュニティからあえて出てみるとか、ちょっと引いた目で見るようにすると、自分自身のことが客観的に見えてくるかもしれませんね。

ーたしかに、小林さんが喫茶店や歌舞伎町で自分の気質を見出したように、いつもの場所から離れてみるって重要かもしれませんね。

23歳〜28歳 他者評価の言葉より、自己評価の言葉に勇気をもらう

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ーところで、就職の話に戻るのですが、たまたまのご縁で入社したIBM。最終的に7年間、在籍していますよね。仕事に対するモチベーションはどうだったんですか?

小林さん:高かったですよ。IBMには、システムエンジニアならいろいろな業種の会社に行って仕事ができるということが面白そうだと思って入社したんですが、実際、いろいろな会社や業界から学べることは大きなモチベーションになっていました。

また、IBMは同期だけで何百人といましたが、みんな仲が良かったし、今も付き合いが続いている人たちがたくさんいます。人間関係はすごくいい会社に入ったなと今でも思いますね。

ーそういう意味では、新卒の選択としては満足いく進路先だったんですね?

小林さん:はい。あっ、ただ一つ。IBMの就職にちょっと関係する話で、もしかしたら今の大学生にも役立つ話かもしれないというエピソードを思い出したので話してもいいですか?

ーもちろんです。

小林さん:大学時代の私は喫茶店を出店したり、着物を着て大学に通ったり、自分で言うのもなんですが、結構、目立った存在でした。

で、大学を卒業して何年か経った頃、偶然、お世話になった図書館の先生と話すことがあり、「今、IBMで働いています」と報告しました。すると、「せかいちゃんはもっと面白いことをやると思ってた」と言われたんです。その言葉がすごくショックでした。

勝手に背負わされた期待というか、すごく嫌だったんですよね。自分はIBMで思い切り楽しく働いているのに……。とモヤモヤが残りました。一方、同じ時期に大学の同期から「どこかで面白いことをやってた人は、いずれまた面白いことをやるから」という言葉をかけられたんです。この二つの言葉って、とても似ているようで、全然ちがうんです。

前者は他者評価の言葉で、後者は自己評価の言葉。「やると思ってた」という他者の目線で点数を強制されることに違和感があったんでしょうね。だから、「面白いことをやるから」というのは、自分にとって面白いかどうかということなので、とても勇気をもらえるエールになったんだと思います。

ーそして、実際にその数年後に「未来食堂」という面白い飲食店をオープンさせることになりますね。今回は小林さんの20代を中心に辿っているのですが、IBM時代に「未来食堂」の構想とかは思い浮かんでいたのですか?

小林さん:いえ、IBM時代は来るべき時に備えて貯金をしていたくらいです(笑)。起業前にもう一社、食に関するベンチャー企業に転職するのですが、その理由もシステムエンジニアとしての成長を考えて決めたことでした。それが、29歳の時です。で、そのベンチャー企業に半年だけ在籍したのですが、その退職間際に未来食堂のコンセプトの原型が浮かんできました。

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「ただめし」という制度を使って食事をとることが出来たお客様からの感謝の言葉たち

29歳〜30歳 食べることへのこだわりがないからこそ生まれた未来食堂

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ー20代の最後の1年。転職から起業までの話を教えていただけますか?

小林さん:私が転職した会社は、社内にみんなが使えるキッチンがありました。ある時、同僚の女性社員ふたりが自分たちの夕食分のパスタを調理して、それをキレイに盛り付けて写真に撮っていたんです。

その光景を見た時にとても違和感があって……。あれ、すごくキレイに盛り付けているのに、何か淋しい食事だなって。そこで、その数日後から私は簡単な料理ですが、他の人たちの分もたくさん作り、社内に声をかけるようにしました。

すると、少しずつですが、一緒に食卓を囲む人たちの数が増えていったんです。この時に「ああ、やっぱり、料理は美味しさだけじゃない。人と人が食卓を囲むことに大きな価値があるんだ」と思いました。

ー小林さん自身が若い頃から体験してきた“食卓を囲む魅力”ですよね。いろいろなものがつながっていく感じがします。と、同時に、小林さんのお話を伺っていると、ご自身が感じる“違和感”というものをすごく大切にされている気がするのですが、この辺りは理由があるんですか?

小林さん:そうですね。わたしは、嫌だったことや違和感を忘れないようにというのは気をつけています。「子供のころはああ思っていたけど、あれは子供だったから」と自分自身の中で飲み込んでしまう大人って多いと思いますが、私はそういう風になかったことにはしない。嫌だったことは、ずっと嫌だったこととして記憶し続けています(笑)。

なんでなんでしょうね。でも、たとえば、未来食堂の「まかない」という誰でも働けるシステムも、じつは自分の嫌だった経験から生まれています。起業しようと決めてから、いろいろなお店に「働かせてください」とお願いして回ったんですが、全部断られてしまって……。

とても悔しかったし、どうして「頑張りたい」と言っている人を応援してくれないんだろうと心に残っていました。だから、「自分が起業できたらから、もういいや」ではなく、「そう言う人たちのために、自分だったら何かできないだろうか」と考えたんだと思います。

同じように嫌な思いをしている人、違和感を感じている人ってきっといるはずですからね。

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ーなるほど。今回の小林さんのインタビューはとても面白いし、読者の学生にとっても新しい未来探し、自分探しの視点にあふれていると思います。最後に、自分自身のこれからのキャリアに悩む学生にもう一つだけアドバイスをいただけますか?

小林さん:じつは、私は食べ物にあまり興味がないんですよ(笑)。本にも書いていますけど、普段はチェーン店のかけうどんやざるそば、スナック菓子で十分です。ヨーグルトばかり食べ続けている時期もありました。

早く食べられるものがいい。そのくらい食に興味がないんですけど、自分が食べたいものと、お客様に食べさせたいものってまったく別物なんです。

その辺りのことがわかっていくのが社会人、曖昧なままなのが学生かもしれません。つまり、自分が好きだからやっているというのとはちょっと違うんです。

だから、もし私がジーンズ屋だとしたら、すごくいいジーンズを作る自信がありますよ。
たぶん、14世紀くらいからの世界のファッションの研究をして、男性だったらこういう形を好むだろうとか調べて、それをお客様の前に出す。全然ジーンズが好きじゃないですけどね(笑)。それが、仕事だと思うんです。

食の話に戻ると、自分が食べるだけの食事と、仕事の勉強のために食べる食事は別なんです。たとえば、ホテルのランチを食べに行き、旬の食材や調理法を学んだり。自分自身に料理に対するこだわりが少ない分、素直に情報として吸収できます。

こだわりや偏愛がないほうが、案外、仕事は上手くいくかもしれませんし、新しいアイデアや発想も生まれると思います。私自身、この未来食堂の他にも、いま、新しい食堂の形も考えている最中ですし、学生の皆さんもあまりいろいろなことにとらわれすぎず、頑張ってみるといいではと思います。

ー未来食堂の次のアイデアですか。そちらも興味がありますね。今回は貴重な20代のお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。

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