「移動」が生む未来



NRIはこの夏も小論文コンテストを行います。この小論文コンテストは時代に切り込む様々なテーマを次世代を担う高校生と大学生に本気で考えてもらう機会を提供してきました。2018年のテーマは「2030年の未来社会を創るイノベーションとはー世界に示す日本の底力!」。

2030年の未来を広い視野で考え、語ることが求められます。前回に引き続き、今回もこの小論文コンテスト応募者に向けてNRIとNPO法人Bizjapanとの間で対談を行いました。(NRIとBizjapanについては前記事に詳しく書いてありますよ!)

今回のテーマは「移動が生む未来です」。人類は様々な境界や枠組みを超えて移動を続けてきました。今後さらに人々は動き続けていくでしょう。しかし、そのことを意識できている人々はどの程度いるでしょうか。動き続けるものを語ることは容易ではありませんが、あえてこれまでとは違う場所に動き続ける人間に焦点を当て「未来」を対談をしてみました。

(編集:Bizjapan 石井大智)
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人物紹介

本田さん本田健司
野村総合研究所サステナビリティ推進室長。証券・公共などのシステム開発に従事し、2000年以降はコンビニ企業のネット通販や携帯・スマホのカーナビアプリ開発等、新規事業の立ち上げに関与。2016年4月より現職。香港に駐在経験(1995年~1998年)

石橋さん石橋 拓真
東京大学2年。JAXA2018年度IAC派遣学生。宇宙飛行士を目指して理科三類に入学後、宇宙医学という分野そのものの可能性に気づく。研究者訪問を重ねる中で分野人口の減少に課題意識を持つに至る。医学生が宇宙医学のスペシャリストのもとを訪問するスタディツアーを企画するなど、日本での宇宙医学の振興に尽力。

亀山さん亀山 裕貴
東京大学2年。バックパックで東アフリカを回る中で多くの現地起業家と出合い、サブサハラアフリカのスタートアップエコシステム、起業家の生態に興味を持つ。特に東アフリカ圏の同年代の起業家や開発者とのネットワークをいかし、複数のスタートアップでアフリカ進出支援も行う。これまでのバックパックでの総移動距離は3,000kmを超える。

アフリカと宇宙の2人

本田:今回は宇宙とアフリカをテーマにしているお二人に来てもらいましたが、まずお二人が具体的にどんなことをされているのか教えていただけますか。

亀山:現在は東京大学へ在学しながら、スタートアップのアフリカ進出戦略に携わっています。マーケットは大きいと言われるアフリカですが、スタートアップがアフリカ進出することはまだまだ少ないです。そのため、様々なシナリオを想定しながら、戦略を練っています。

石橋:現在は宇宙医学の勉強を自分でしつつ、医学生をフライトサージャンや宇宙医学研究者のもとに連れて行くスタディツアーを主催しています。宇宙飛行士を目指して医学部に入った後に宇宙医学という分野そのものの可能性に気づき、自らアクションを起こしてみているという感じです。

本田:お二人とも人のダイナミックな移動と何らかの形で関わっていることをされているのですね。ではまず石橋さんからお話を伺いましょうか。宇宙で医療が必要なのはどうしてでしょうか?

人が行く場所に医療ありーもちろん宇宙にも

石橋:端的に言えば宇宙にヒトが行くからです。ヒトあるところに医あり、ヒト無きところに医なしですね。ではなぜヒトが宇宙に行くかというと、2通りあります。

本田:2通り?

石橋:すなわち、地上の人類にとって必要であるから、という場合と、単に彼らが行きたいから、という場合です。前者は宇宙飛行士、後者は宇宙旅行者と呼ばれます。今までの宇宙開発では前者が圧倒的に多く、宇宙医学もそれに適合したものでした。

つまり、如何に超健康集団を飛行士として選抜し、その集団ですら生じるような宇宙空間での変化に如何に対応するか、さらにはそれらを数は少なくとも質の高い被検体として基礎研究の対象にするかが主眼だったわけです。

本田:しかしそれが近年変わりつつあるということですね。

石橋:はい。近年、後者の需要を広く実現するだけの技術が次第に整い始め、宇宙旅行の時代が確実に近づいている。その際に必要になる医療は、宇宙飛行士の健康管理をベースにしながらもそれを適切に緩めたものとなります。

本田:では、ヒトが今宇宙で受けている医療というのはすでにあるのでしょうか?

石橋:今のところ、大規模なものはありません。今まで宇宙空間に足を踏み入れたヒトの大部分は超ウルトラ健康体である宇宙飛行士であり、彼らはただでさえ健康な上にさらに超ウルトラ精密な病原菌チェックを通過してロケットに搭乗する。

そして軌道上での彼らの業務は彼ら自身のストレスも踏まえた上で最適な業務スケジュールと睡眠時間がコントロールされる。かすり傷程度のものならあるとは思いますが、今のところ宇宙空間で大けがをした飛行士の例はありません。

本田:では宇宙での医療は、どのような姿が考えられるのしょうか?

石橋:それはフェーズによるし、ハードウェアによると思います。フェーズというのはつまり宇宙空間での滞在が誰にとってどこでどのくらいの期間可能になるかということ、ハードウェアというのはつまり宇宙にアクセスする手段や宇宙で滞在する手段が物理的にどのようなものになるか、ということです。

この2つの要素は勿論独立ではなく、互いに連関し合っています。宇宙に移動する第2のハードウェアとして宇宙エレベータが登場すれば、少なくとも低軌道にはもっと様々な所得の人が滞在可能になりますし、そこから月・火星へのアクセスも容易になります。

本田:フェーズという視点では現状は具体的にはどうなのでしょうか?

石橋:フェーズについて言えば、今は数年前から訓練を受けていた飛行士でも最長6か月の滞在という世界。商業用の滞在なら、日単位になる。その短いフライトの為に長い検査・トレーニングとつらいリハビリを乗り越えるのが現在のフェーズです。

しかしここからフェーズが進むにつれて、軌道上で過ごす時間が伸び、そこでの精神面での細やかな動きのケア、ないし軌道上での医療そのものに重点がシフトしていくでしょう。

何を「基準」とするか

本田:なるほどなるほど。では、ハードウェアの面ではいかがですか?

石橋:現在はロケットという手段で宇宙に行き、そこでISSというモジュールに滞在するというのがヒトと宇宙の関わり方の殆ど全てです。それ以外の今後の可能性としては、移動手段として先述の宇宙エレベータが、宇宙での滞在手段として人工重力を発生させる回転型ステーションが考えられます。

もっと細かい分類はありますが、医学的には大まかにこの区別が重要だと思っています。重力がどうであるのかというのが、やはり一番の関心事なので。

本田:そうなのですね。回転型ステーションというのはSFなんかでよく見ますが、本当にありえるのですか?

石橋:大真面目に検討されていますよ。ただ、ステーション全体を丸ごと回す形だけでなく、ステーションの内側で一部を回転させるというような在り方も有力なものとして検討されています。

人工重力実現のインパクトはとても大きいものがあって、もしステーション丸ごとを回転させられたら、そのステーションの存在意義は現在のISSとは全く異なり、「ステーション内が無重力であること」ではなく例えば「月への軌道の中間地点にあること」といった具合になるのです。仮に部分的に回転させるものになったとしても、飛行士の滞在中のトレーニング効率が飛躍的に向上する可能性を秘めています。

本田:そう言えば今って宇宙飛行士って宇宙でも毎日相当のトレーニングをしているんですよね。それって今後も必要なのでしょうか。

石橋:おっしゃる通り、今現在ISSに滞在している宇宙飛行士は毎日2時間を筋力トレーニングに費やしています。宇宙空間では筋量・骨量が減って地上に戻った時に大変になるので、少しでもその影響を減らすためですが、これって視点を変えると宇宙ではその「減少した」骨量でもやっていけるということなんですね。

つまり人体はその場その場に素早く適応をしているに過ぎず、極論地上に2度と帰らなければ帰還後の「後遺症」の恐れも無くなるので、毎日2時間のトレーニングも不要になるでしょう。

本田:何を基準にするかによって違うのですね。

石橋:例えば、地上では「医療」と「ヘルスケア」は違うものです。前者は「マイナス」を「ゼロ」に、後者は「ゼロ」を「プラス」にするものとして語られます。しかし宇宙では、まず何が正常で何が異常なのかすらも判然としない。

どこを「ホーム」と思うかでその尺度は全く別なものになるからですね。前述の例で言えば、地球上を基準にすればISSの飛行士はひどく貧弱ということになりますが、月面を基準にすれば十分な筋力があると言ってよいのかもしれませんし。

宇宙エレベータ。実現のカギは、テザー(エレベータが辿っていく”ヒモ”)に適した素材の開発。


ISS(International Space Station.)現在の有人宇宙開発の拠点。宇宙に浮かぶ「巨大実験室」で、宇宙医学研究の実験もここで多くなされている。

アフリカの移動とスタートアップの関係性

本田:では続いては亀山さんのアフリカの話に映りましょうか。

亀山:アフリカの移動の注目すべきトピックは大きく3つあります。特に、スタートアップの文脈と結びつけて説明させていただこうと思います。

本田:お願いします。まず一つ目は?

亀山:1つ目は国内の移動ですね。現在アフリカ諸国では急速に都市化が進んでおり、労働者が都市部へ職を求めて地方から人々が移動しています。それによってスラム問題、ゴミ問題、文化的衝突など様々な社会問題が起こっていると。

そして、課題が生まれてくると同時に、確かにスタートアップや社会企業が立ち上がっていっています。極端な例だと、ケニアの首都ナイロビは急速に発達しすぎた結果、交通網が完全に麻痺し、空港からナイロビ市内までヘリコプターで移動できるVIPをターゲットとしたスタートアップが出てきたくらいです。

都市の出勤、帰宅時間はいつも道路が混み合っている ©2018 Hiroki Kameyama. All Rights Reserved.

亀山:そして、こうしたスタートアップの成長に必須である投資の可能性も広がりつつあります。依然として、スタートアップやベンチャーに対する融資機会は少なく、特に株式市場が発達していない地域ではいまだに資金調達の機会が少ないですが、近年は開発機関や民間投資機関を中心とするインパクト投資(経済的リターンだけではなく社会的リターンも追求する投資形態)や、ICOやクラウドファンディングなどの代替的な資金調達の手段も広がりつつあります。

こうした社会課題の増加、投資機会の増加により、これからどんどん面白いビジネスモデルを持ったスタートアップが立ち上がってくる可能性は大いにあります。

本田:都市化というのは大きな要因なんですね

亀山:そうですね。都市化といえばこんな話もあります。ケニアでモバイルマネーが流行ったのも急速な都市化に伴う送金ニーズや既存の金融サービスへのアクセスが限られていたからです。

ちなみに、こうしたイノベーションが実現したのは、ケニアが経済的に豊か、もしくは他の国に比べて技術力が高いからではなく、人の生活に適したビジネスや技術を用いることができたからです。また、ここでは詳しく触れられませんでしたが、中産階級の国内旅行などのニーズも増えつつあり、国内の移動はこれから多様化していくだろうと予想されます。

モバイルマネーの取扱店 ©2018 Hiroki Kameyama. All Rights Reserved.

アフリカ大陸の抱える難民問題と物流問題

本田:モバイルマネーの話は、前回の技術だけでは未来を語れないという話にも通じるところがありますね。では2つ目の着目すべき移動とは?

亀山:2つ目はアフリカ大陸内の移動です。発展していると言われているアフリカ大陸ですが、アフリカ大陸は55か国からなる巨大な大陸です。国によって経済発展や政治状況、衛生環境、文化などはまちまちです。順当に経済成長が続く国もあれば、現在でも中央アフリカ周辺国をはじめ経済的発展や治安が安定していない国も依然として存在します。

大陸内の「ヒト」の移動でいうと、そうした不安定な国から難民申請者が大量に周辺諸国へ流出し、場合によってはどの国家の保護も受けられないという状況も事実として存在します。そして、大陸内の「モノ」の移動では、域内でも国によって異なる規制、通貨、インフラレベルを持っていることが多いため、物流コストが高くなりやすい傾向があります。

本田:大陸内の抱える難民問題と物流問題ですか。それぞれかなり大きなトピックですね。どちらかというと、政治の問題である気もしますが。

亀山:その通りです。こうした大陸内を巡るヒトやモノの流れは国ごとの独自の歴史的背景や文化的背景、国際情勢が大きく影響しており、単には解決できない課題として残ってきました。私個人の意見として、だからこそこうした状況に一石を投じて行くには、テクノロジーやスタートアップが秘めている可能性は非常に重要なものだと考えています。

本田:ふむ。これまで解決できなかった部分でテクノロジーを入れていくということですね。具体的にどういうことが可能となるんですかね?

亀山:個人的にはブロックチェーンとビッグデータという最近のバズワードはアフリカにおいても見過ごせないと思っています。引き続き難民問題と物流問題を例にあげながら話していきましょう。

難民問題でいうと、現在難民申請や難民への物資の供給の場面でブロックチェーン技術が試験的に導入されています。これにより、これまで非常に高いコストのかかっていた難民申請手続きや物資供給の確認コストが大幅に削減できるという試験結果も上がっています。

また、キャッシュカードやモバイルマネーなどを用いて難民がキャンプ内で支払った決済データを取ることで、彼らが何に対してどの程度お金を使ったかというデータを取ることが可能です。これにより、難民支援を効率化することが可能となります。

本田:ふむふむ、難民支援の現場はまさに今変わりつつあるといったところでしょうか。物流問題はいかがですか?

亀山:物流問題でいうと、特にコーヒーなどの高付加価値農作物の物流網などでもブロックチェーンが用いられ、生産者から消費者に至るまでのプロセスが透明化されつつあります。また、農作物のブローカーの搾取を避けるためにサプライチェーンを改善することで、農家や仕入れ人がどのくらい何をいくらでで買っているのかというデータを手に入れることができます。

こういった購買データを用いることで個人の購買力や信用コストを推測することができます。いまだに多くの場面でデータが不足しているアフリカでは、こうしたデータは非常に貴重、かつ有用なものとなります。

普段食べるバナナでさえ、誰が作ってどのように運ばれてきたかわかるかも? ©2018 Hiroki Kameyama.All Rights Reserved.

本田:なるほど。ブロックチェーンとビッグデータ、難民問題と物流問題ですか。今後もアフリカ大陸内の移動の中で大きなトレンドとなっていきそうですね。

アフリカ大陸を超えた移動も

亀山:3つ目はアフリカ大陸外部から内部への移動です。

本田:逆ではないんですね。外部から内部の移動って意外ですね。

亀山:そうなんですよ。大陸外に散らばっているアフリカ系移民(ディアスポラ)のアフリカ大陸への頭脳回帰、流入はこれからの大きなトレンドになっていくのではないかと思っています。

ご存知の通り、これまでは、優秀な人材が国内の治安や経済悪化からの脱却、より良い外部の就業機会を求めて、国外に頭脳流出していくことが大きな社会問題として取り上げられていました。ただ、近年ではそれが変わって行く兆しも見られます。

本田:ふむふむ。興味深いです。

亀山:教育機会や就業機会でアフリカを出やすくなっている一方で、アフリカ諸国の経済成長やアフリカ回帰の文化的な大きな流れに押されて、多くの優秀な人がアフリカへ戻る、もしくは入ってくる傾向を感じますね。

実際、アフリカで成功している多くのスタートアップのエグゼクティブ層は海外での教育機会や就業機会を有していることが多い。さらに、アメリカやイギリスで起業し、アフリカでビジネスを行うということはかなり多いのです。これは先進国の投資家や市場へのアクセスが開けるという実際的なメリットがあるということも関係しています。

本田:ふむふむ。興味深いです。

亀山:文化的な面で言うと、アフリカのミュージシャンがアメリカのラッパーとコラボ、ツアーを行なったり、ナイジェリアの映画が世界中で消費されるなど、インターネットやディアスポラのつながりを通して大陸外から一気に注目される機会も増えていますよ。

人の移動を地球規模で見ていこう

本田:お二人とも興味深いテーマのご提供ありがとうございました。Bizjapan内外での活動を通した生の体験から学んで来たものが生き生きと伝わって来ました。

私たちというのはどうしても普段触れているものを通して考えてしまうので、人の移動といえば日本国内の外国人労働者ばかりに目が向きがちですが、人の移動というムーブメントは地球規模で起きているわけで広い視座を持っていくことがとにかく大事ですね。小論文への応募者にもこういう広い視野を是非とも持ってほしいものです。お二人ともありがとうございました!

石橋・亀山:ありがとうございました!
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