AIだけで未来は語れない

NRIは、日本初の民間シンクタンクである野村総合研究所と、システムインテグレーターの草分けである野村コンピュータシステムの合併によって生まれました。

「未来創発 ―Dream up the future.―」という企業理念のもと、未来社会のパラダイムを洞察し、広く社会に提言する力、顧客の立場で考え、徹底して品質にこだわる姿勢など、それぞれの前身から受け継いだDNAを融合しながら、時代を先取りする企業活動を進めてきました。

そんなNRIが13年に渡ってやってきたのが小論文コンテストです。この小論文コンテストは時代に切り込む様々なテーマを次世代を担う高校生と大学生に本気で考えてもらう機会を提供してきました。

2018年のテーマは「2030年の未来社会を創るイノベーションとはー世界に示す日本の底力!」。2030年の未来を広い視野で考え、語ることが求められます。

今回この小論文コンテストに向けた一つのヒントになってほしいとNRIとNPO法人Bizjapanとの間で対談を行いました。

Bizjapanは東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学の学生などからなる学生NPOで、多様なメンバーが社会に新しい価値をもたらすプロジェクトをお互いのリソースや知見を共有しながら動かしていく組織です。何をやるかは決まっておらず、どう他者と向き合うかのみが決まっている団体です。留学生も多く所属し、普段のミーティングも英語が中心です。

今回のテーマは「技術発展以外において未来はどう語り得るのかどうか」。私たちは未来を語る時、ロボット、AIと言った分かりやすい技術発展の話ばかり想像してしまいます。

しかし社会、家族、学校、働き方が数多くの点でこれまで変化してきたように、技術発展以外にも社会が変わりうる部分は多くあるのではないか。あえて技術以外にフォーカスして我々がどのように未来を考えることができるのか対談していきたいと思います。

(編集:Bizjapan 石井大智)
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人物紹介

本田さん本田健司
野村総合研究所サステナビリティ推進室長。証券・公共などのシステム開発に従事し、2000年以降はコンビニ企業のネット通販や携帯・スマホのカーナビアプリ開発等、新規事業の立ち上げに関与。2016年4月より現職。香港に駐在経験(1995年~1998年)

成田さん成田航平 (なりたこうへい)
東京大学法学部4年。「社会が作り出す機会格差を地球上から一掃する」ことをライフミッションとし、非大卒の就業支援を行うスタートアップにて複数事業を立ち上げ、自身としてもエストニアにてGate10 projects OÜを共同創業者として起業、地域での教育プログラムの開発、アパレルブランドのデザインを行う。またダボス会議によるglobal shapers yokohama hubのメンバーとしても活動。

西丸さん西丸颯 (にしまるそう)
兵庫県出身。東京大学理科一類二年。カメラマン兼デザイナー。目指すところは「クリエイティブで人を清く正しく美しく殴れるようになること」 大学入学後にデザインをはじめ、印刷物デザインやUIデザインを中心に活動。家庭教師マッチングサービスの立ち上げ時にデザイナー一人としてすべてのUIをデザインした。現在は教育アプリのUX/UIデザインをしている。日常的に美女のポートレートを撮っている。

今回は機会格差とデザインに着目するBizjapanメンバー

本田:今日のお二人は様々な活動をされている方でしょうから、その活動を切り口にまずは話を伺いましょうか。まずお二人の活動について簡単に教えてください。

西丸:巷で流行りのデザイン思考とは何かを正確にとらえられるようにするためにデザイナーをしています。デザイン思考におけるデザインという言葉とデザイナーが業務として行うデザインの言葉の差に何が潜んでいるのかを探求しています。あとカメラマンとしてポートレートとってます。

成田:機会格差というものに注目して、就業支援や教育、アートなど様々な手段でその解消を目指しています。具体的には地域の高校生に対するイノベーション教育や非大卒向けの就業支援、また社会が生み出すバイアスを解消するためのファッションブランドのデザインなどになります。

労働力需要の高まりが社会階層を崩していく

本田:今おっしゃったように、成田さんは非大卒の就業支援を行う企業でいくつかのプロジェクトをされているようですね。

成田:そうですね。その企業では地方のヤンキー(非大卒の若者)にビジネススキルやプログラミングスキルを身に付けてもらって、非大卒の人が本来就けなかったような会社に就職してもらうといったことをしていて、僕はその中でエビデンスを持った事業運営のための研究所運営や高校生向けの企画などを行なっています。

研究所立ち上げメンバーと

本田:こういうビジネスがうまく行っているのはなぜでしょうか。

成田:いろんな地方を訪れる機会があるのですが、とにかく人がいないということを耳にします。そのような人口減少のテーマになると機械による労働力の代替という話になることが多いと思いますが、こういったビジネスを考えると別の側面が見えてくるかと思います。それが、社会階層の融解です。

つまり、人口減少が起こり、労働力に対する需要が高まることによって私たちが持っている偏見が打ち砕かれ、社会は人材を能力ベースで評価せざるを得なくなります。非大卒向けのビジネスはそういった流れに乗れているからこそうまく行っているのではないかと。

本田:労働力に対する需要の高まりが社会階層を崩していくということでしょうか?人口減少というと機械による代替化をすぐイメージしがちですが、従来活用されていなかった人材を活用するという発想も当然あるはずで、納得です。

成田:まさにそうです。そこで重要となってくるのは、労働力に対する需要が社会階層を崩した先にある社会では、これまで関わってきた人とは違う階層の人と接する機会、今までより多様な人間と協働する機会が生じることです。

例えば僕が協働する企業の社員の方は非大卒の方も多く、大学に進学している僕自身とはバックグランドが異なり、そういった中でプロジェクトを進めています。

本田:そういう多様な人間で接することが増えると衝突も起きそうですね。

成田:おっしゃる通りで、同質的な集団に慣れた私たちにとってそれは非常に重い負担になるでしょう。異なる人とともにいることは基本的にしんどいものです。そこで教育とアートというものが非常に大切になると考えています。

インクルーシブ教育を実現し、人々の多様性を理解させ異質なものとの対話・接触が可能であるような環境を整える必要があります。そして、アート・エンターテイメントの力がその流れを加速させて行く際に重要になっていくでしょう。何故ならば多様性の理解においてはイデオロギーの押し付けだけでは不十分だからです。

例えば、「外国人は出ていけ!」という人に「多様性を大切に!」と言うことや、「女性は家庭に入るべきだ!」と言う人に「男女平等だ!」と言うことはあまり効果的でないように思えます。そういった時にもっともっと自由な価値観をイデオロギーの押し付けにならないよう楽しみながらアートを通じて体得できることこそこれからの時代に大切になることでしょう。

本田:その先の未来というのは?

成田:そうして多様な人々に等しい機会のアクセスが担保された社会に残る課題はモチベーション格差であるように思います。やる気がある人はいかなる社会階層であっても、機会をつかむことができ、やる気がなければ、それが難しい。

そうなることを防ぐための一つの手段として、私は地方の高校でアイデア創出の授業をやっていますが、全ての子供が当事者として世の中に対する好奇心を育めるような仕組みが同じく公教育全体に求められていると思います。

そしてまたこのような人々の多様性による軋轢とその先にあるモチベーション格差の根本的解決には必ずしも機械的なものだけで解決しうる訳ではないことを認識しておくのも重要だと思います。

地域でのアイデア創出授業の様子

本田:人口減少はAIなどの機械活用に繋がるだけではなく、非大卒のような人々の活用で社会階層の境界を溶かすと。その溶かす過程でモチベーションを引き上げる教育が必要となるということなんですね。ありがとうございました。

未来において何が変わらないか

本田:では次に西丸さんに話を聞きましょう。スタートアップでこれまでデザインを担当されてきたんですよね。デザインと関わりで未来を考えることってよくあると思うのですが、具体的にどんな手法があるのでしょうか。

西丸:現在と比較した未来を想像する方法はデザインの界隈でもいくつも取られてきています。例えば未来で生まれたテクノロジーが未来においてどのような使われ方をしているかをプロトタイプに落とし込むことで線形的な想像とは違った未来について具体的なイメージを以って議論できるようにするスペキュラティブデザインはその手法の一つです。

この潮流はロンドンのRCAが主導しています。普段の思考の枠から大きく外れた未来像を提示することで狭くなりがちな私たちの未来洞察の幅を広げ自由な議論をおこすという役割を果たします。

RCA-IIS Tokyo Design Labの授業でスペキュラティブデザインに近いことをやったときのアウトプット。本職のスペキュラティブデザインはもっとすごい

本田:テクノロジーばかりの話に批判的になるという趣旨の記事なのにテクノロジーの話が出てきてしまいましたね。

西丸:ご心配なく。たくさんの手法が未来における変化が何であるか、それに対してどう対処するべきかについて着目している一方で、案外「未来において何が変わらないか」について考えられているものは少ない。テクノロジーは多くのものを変えるかもしれないですが、それらが変えないものも当然あるでしょう。

本田:というと?

西丸:例えば未来における食事の話を考えてみましょう。テクノロジーの発展した未来においては栄養を摂取する食事と味を楽しむ食事が異なる体験となっているかもしれない。味覚や嗅覚に重きを置いた食事だけじゃなくて聴覚を楽しませてくれる食事かもしれない。生産者とより近くなるかもしれない。ここではなんだっていいですね。

ただこういう未来を考えるときにふと忘れてしまうのは「焼肉はうまい」ということです。どんな時代においても焼肉はおいしい。白ごはんがあると最高だ。うまい。想像するだけで行きたくなってきた。それより先に朝ごはん食べなきゃ。パンがいいかな。

本田:食べるのは後にしましょうか(笑)。

西丸:すいません(笑)。それはさておき話を続けると未来を洞察する際に「何が変わらないか」を知る必要があるのは、洞察した未来は本当にありうる未来か、私たちの何を変えるのかを考える際の強い評価の軸となるからです。未来の創造は時に大胆になる。そしてよくテクノロジー中心で未来は描かれる。

だけれどもそれが本当に人間に影響を与えるかどうかは人間中心で評価しなくては未来における私たちが見えなくなってしまう。その時に「どんな未来だろうが焼肉はうまい。この未来のストーリーに焼肉はうまいという声ははいっているか」と考えることは重要ですよね。

本田:テクノロジーではなく人間視点で未来を想像するべきだと?

西丸:その通りです。「世界は過去にないほど多様化と複雑化の度合いを増していて、その速度はさらに増していき、もはや予測不可能だ」というのは広く認められている言説でしょう。そしてそれを前提として基本的に未来の議論は進んでいきますが、私はこの言説を疑っています。

本田:どういうところがですか?

西丸:ここで気になるのは「過去にないほど」という言葉です。なにが動力となって過去にないほどのスピードでこの世界を変えているのか、逆にそれが動力となるのは人間のどんな変わらないところがあるからなのか。

そして立ち戻って「過去にないほど」という言葉は本当なのか。過去においてどんな事例があってそれは今とどう違うのか。未来においてはどう変わるのか。何が変わらないのか。

そういう「未来において変わらないことは何か」について考えることが未来の変化を予測するのに最も大切なことであると考えています。

テクノロジーだけで考えない未来を

本田:成田さんは、人口減少は機械化だけをもたらさず、社会階層の融解ももたらすかもしれないし、そのことによる人々の衝突とモチベーションの向上は機械的なものだけでは解決しないと指摘してくれました。西丸さんはテクノロジーが変える世界においても何が変わらないのか探索し続けることの重要さを語ってくれました。

小論文コンテストで未来を考えるとき応募者の皆さんはつい技術発展のことばかり頭に浮かぶかもしれませんが、ぜひお二人のように多面的に考えて欲しいですね。お二人ともお時間お取りいただきありがとうございました。

成田・西丸:ありがとうございました!

本田:次回は、移動する人々をテーマに未来の話をBizjapanの方々とできればと思っております。

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