みなさんは、自分の将来を考えるとどんな気持ちになりますか?キラキラしている人の姿を見ては、何だか自分だけ置いていかれているような気持ちになるなんてことも・・・。
「29歳までの道しるべ」では、現在いろいろな舞台で活躍する大人たちを取材し、彼らの20代のお話を聞きました。
いまだからこそ言える“少しでも人生を前に進めていくためのヒント”です。

物事は表裏一体である。それが分かれば、なにもかもがおもしろいんですよ。ー映画プロデューサー 梅川治男



今回、ご登場いただくのは梅川治男さん。映画やドラマなどのプロデューサーとして数々の名作を世に送り出してきました。
2012年には「ヒミズ」で第31回藤本賞・特別賞を受賞。今年は大竹しのぶさん、室井滋さんW主演のドラマ「アイアングランマ2」の制作統括の他、9月22日公開の野村周平さん主演映画「純平、考え直せ」などを手掛ける現役の映画プロデューサーです。
プロダクション作品として6月22日公開の「焼肉ドラゴン」が絶賛上映中です。

つらいことも、視点を変えれば楽しい修行になる。今をときめく映画プロデューサーが、自身の20代を振り返る。

~22歳 映画の世界に足を踏み入れたのは偶然だった

—梅川さんの学生時代について教えてください

梅川さん:私は日本大学芸術学部映画学科の出身なんですが、最初から「どうしても映画が撮りたい」と思って入学したわけではありません。
高校は5年制の高専に通っていて2年次に留年。「実験しててなにがおもろいん?」という疑問が頭を離れなくなり自主退学という道を選びました。

理系がまったく肌に合わなかったので、「真逆の“クリエイティビティ”に挑戦してやろう」と大検から大学へ。同級生の松岡錠司監督と出会い、自主制作に取り組むようになり、映画作りにのめり込むようになっていったんです。

梅川さん

学生時代の梅川さん

—やはり映画に夢中だったのでしょうか

梅川さん:もちろん映画づくりはおもしろかったのですが、学生時代は本当に色々なことをやっていました。今思えば、むちゃくちゃな4年間だったと思います。

当時は勉学の傍らでカフェバーの店長を任されていて、そこには夜な夜なおもしろいやつが集まって来てました。皆、全く根拠はないですが自信だけがある、という(笑)。バンドやってるやつ、舞台をやっているやつ、行商をやってる学生とか、なぜかゲイもそこではカミングアウトしてて。

昼間は大学の学食でたむろってました。「おもろいやついないかな」てな感じで。そこで突然「舞台やらないか?」と声をかけられやった事もありました。その彼は今では日本の誰もが知っている有名監督です。

毎日がサーカスのようで楽しく、当時流行っていたディスコに行くようなやつはまわりにはいませんでした。皆、浮き世離れしていて就職活動の情報もまったく耳に入ってこなかったですね。私自身、4年生の10月に初めて履歴書を書いたくらいでしたから。

そんな私が映画の世界に入ったのは、偶然の出会いがきっかけ。店長しているカフェバーで、監督の河合義隆さん、演出家の蜷川幸雄さんが取締役を務めるプロダクションにいた大学の先輩に「オマエ、おもしろいやつだな。一度事務所に遊びにおいで」と声をかけられ、顔を出すことになりました。

梅川さん

~24歳 給料がもらえる。ただそれだけのことが最高に嬉しかった

—梅川さんの新人時代はどのようなものでしたか

梅川さん:手取りは10万円以下。ボーナスもゼロ。そんなスタートでしたね。現在の大学生から見ると不思議に思うかもしれませんが、私はたとえ貧乏でも毎日がとても楽しかった。当時は、なんの役にも立たない新人。それでも給料がいただけるんです。心の底からありがたいと思っていました。なぜか。

入社前、社長(僕の師匠です)に「君はいくら会社に利益をもたらすの?」「日本は資本主義。稼がない人は給料ゼロなんだよ」と言われて、現在の自分が立っている場所を思い知ったからです。しかし、物事には必ず表裏があります。

裏を返せば、稼げばそれだけ自分に跳ね返ってくるということ。当時はあたりまえに貧乏でしたが、給料がもらえる。それは僕がプロであることなんだ。と、ただひたすらその喜びを噛みしめていました。

梅川さん

—新人時代の挫折について教えてください

梅川さん:挫折はありませんね。毎日が楽しかった。1年目からプロデューサーとして現場に放り込まれていましたし、日々一歩一歩、着実に成長しているという実感がありましたから。そういう意味で言えば“なんの役にも立たない新人”と自分を冷静に認識できたことは大きかったと思います。

もちろん失敗もありましたし、叱られることもありました。今考えると恥ずかしい事だらけです。しかし、当時、師匠や先輩たちに教わったこと、教わった言葉は今も私の血肉となっています。

「考えずにやったことは、成功しても失敗しても価値はない。考えて考えてやった事なら、失敗しても価値がある」「他人の作品の悪口を言うなら、オマエがつくってみせろ。梅川はもう観客席じゃなく、バッターボックスに立ってるんだ」どの言葉も懐かしく、どの言葉も戒めです。この世界を厳しいと思う人もいるかもしれませんが、受けとめ方次第で一見つらい事も楽しくなります。修行になります。少なくとも私は、この生き方を誇りに思っていました。

また、「貧乏くさいのはダメだ、堂々と貧乏していろ! 清貧であれ」という師匠の言葉どおり行動してたら皆が奢ってくれた(笑)。
明るく貧乏してたら、皆、期待を込めて奢ってくれる。暗く貧乏くさくしてたら奢る気がうせる。その事を早い時期に習得したから日々美味しいものを食べてました(笑)。
だから、今は、明るい貧乏な若者に奢ってます(笑)。

梅川さん

どの仕事がおもしろいかなんて、なぜわかるんですかね

—人生の先輩として、学生にアドバイスをいただけますか

梅川さん:就職活動について、すこし疑問に思うところがあります。意外と「この仕事がおもしろいからこの会社に行く」という論理は矛盾してると思うんです。私自身もそうでしたが、まず働いてみて初めて“お金を貰うことの凄さ”がわかると思いますし、その仕事の醍醐味を体感することができると思うんです。理屈じゃなくてね。

メーカーに入社して、希望に反して開発ではなくチラシを担当することもあるでしょう。そのとき「あっ、宣伝広告面白い」と思うかもしれない。計画的に生きることもひとつの選択ですが、計画がすこしでも崩れれば挫折することになります。よく分からないけど、なんとなく面白そう、会社が家近くてラッキー、とか案外、そんな勢いが、みなさんの可能性を広げるのかもしれません。

ちょっと見方を変えるだけで、なにもかもがおもしろくなります。おもしろい仕事を探すのではなく、なんでもおもしろがってみる。情報やハウツーはあくまで参照にとどめないと。むしろ疑って、裏側から違う視点で見る事も大事だと思う。実際僕らの業界も本当に、今、人手不足です。そんな情報あまり出てないのが不思議でしょ(笑)。

—ありがとうございました。

梅川さん

今回取材させて頂いた梅川さんのプロダクション作品、「焼肉ドラゴン」は現在絶賛上映中です。
是非劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

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