ちがう世代からの見られ方を知る。
それって案外、同じ世代と話しているときよりも自分の強さとか弱さに気づかせてくれるものなのかもしれません。
「最近の若い奴らは・・」の言葉のもとに、大人たちがきみたちへ贈るエール、ぜひご覧ください。

見たことのない仕事、見に行こう―(株)仕事旅行社 田中翼さん

田中翼さんは、「仕事旅行社」というちょっと変わった名前の会社の代表を務める方。仕事旅行社は、大人が休みを使って旅行にでも出かけるように、気軽に別の職場を訪問し、その道のプロの話を聞いたり、実際に仕事を体験したりできるサービスを提供している会社です。立ち上げたのは7年前。

「働き方改革」や「副業」といった言葉が今ほど注目を集める以前から仕事のあり方に関心を持って様々な活動しており、短パン、ポロシャツ姿で優しい表情を浮かべながらお話しされる田中さん。日々さまざまな人たちの仕事に対する興味や悩み、そして変化を見続けている田中さんに、今回は最近の大学生や彼らと仕事の関係について、「最近の若い奴らは…」を入り口に語ってもらいました。

会社訪問をくり返して思った「働き方ってこんなに自由なんだ!」

田中さん:最近の若い奴らは……ですよね。人生100年時代じゃないですけど、今後、人生が延びていくって話は盛んに言われていますよね。そうなると、これからの若者の働く時間は、今までのどの時代よりも長くなる。よく言われるのは、仕事人生60年間説。そんな長い時間を費やす仕事ですが、あまり良いイメージはないですよね。できれば働きたくないという人も少なくないのでは。

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田中さん:実際、厚生労働省の調べによると、仕事について満足感を持つ者の割合は1990年代半は以降低下しているようです。ちなみに、不満の最大の理由は、給料が少ないことなのだとか。一方で、別の統計によると、国民1人あたりの所得額は1972年の調査開始以来ずっと右肩上がりに伸び続けている。(内閣府の国民生活選好度調査)なのに、幸福度(幸福と感じる人の数)は年々下がっている。

批判を恐れず言えば、日本人は給料が増えれば幸せになれると考えているけれど、それは単なる思い込み。実際は稼ぎが良くなっても、今以上には幸せにはなれないということ。
そうなると、生活のための仕事というこれまでの考え方から、変えていく必要があると思いませんか。

やりがいや好きなこと、やりたいことを追求する手段として選んでも良いのではないかと思うのです。人生の多くの時間を費やす仕事そのものにやりがいがあって、楽しければ、幸福度だって上がるはずなんです。

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自分自身を知るために、いろいろな仕事を試してみよう

ーでも、社会にまだ出たことのない大学生が、やりがいや好きなこと、やりたいことを見つけるって難しいですよね?

田中さん:もちろんです。やりがいのある仕事を探し当てるって一朝一夕にできることじゃなくて、そもそも自分が何に興味があって、どういうことに喜びを感じるんだってことを理解していないといけない。しかも、その自分自身を理解するために、頭の中で悶々と考えていても答えは出ない。だからこそ、いろいろな仕事を試してみて、「この仕事は好き、この仕事は嫌い」とか「自分はこういうところに刺激を受けるんだ」とかリアルに感じる必要があると考えます。

最近なら、学生はインターンシップといった機会を利用することになると思うんですが、長期のインターンシップを学生時代にいくつも経験するって難しいですよね。なので、「もっと旅行感覚で、気軽にいろいろな仕事を見てくればいいじゃん」と思うんです。

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—それが、仕事旅行社のサービスなわけですね?

田中さん:はい。そうです。でも、うちに限らず、アルバイトやボランティアで経験してもいい。自分で物を売ってみるとかでもいいですよね。
お金を稼ぐ手段としての仕事ではなく、自分が何をやりたいのかを確認する場として、とにかく、若いうちにいろいろな世界に足を突っ込んでみるというのが重要だと思います。

カルチャーショックを受けて、自分がチューニングされていく。

ーなるほど。ちなみに、田中さん自身はどうして仕事旅行社を始めようと思ったんですか?

田中さん:もともと僕は金融業界の運用会社で働いていました。5〜6年勤めたところで、それこそ「この仕事で本当にいいのかな?」と僕も悩み始めたんです。
だからといって、自分のやりたいことなんてわからない。そこで、さまざまな知り合いの会社に勝手に訪問するということを繰り返しました(笑)。

そうすると、会社によってまったく空気が違う。ベンチャー企業の職場を訪ねたら、ドアを開けた瞬間から社長が短パンで登場したり、フロアにポップコーンマシンが置いてあったり。金融業界ではありえないですよね。

そういう光景を見続けていくうちに、ある種のカルチャーショック、「仕事って、働き方って、こんな自由なんだ」と気づきました。で、僕自身も刺激を受けて、じゃあ、自分で新しい仕事をつくるのもありなのではと思うように。

そうして、さまざまな職場体験を通して、仕事や働き方に対する価値観を変える仕事旅行社という会社を起業することにしました。

ー現在の仕事旅行社の参加者は、学生というよりも、すでに社会で働いている大人の方が多いんですよね?

田中さん:そうですね。すごく意識の高い学生がたまに参加してくれることもありますが、自分の原体験をそのまま形にしたサービスですし、ほとんどはすでに仕事をしている社会人です。

中には、参加した結果、「こんな働き方があるんだ」と衝撃を受け、会社を辞めて自分で新しく何かを始める人もいますが、ほとんどの人は自分の職場に戻って、これまでと意識を変えて働くパターンが多いですね。

よく旅行にたとえて話すのですが、日本人が初めて海外旅行に行くと改めて日本の良さに気づくじゃないですか?それと同じように、別の職場を見たことで、今の会社がすごく恵まれているんだなって客観的に見えてきたり、その結果、仕事に対するモチベーションが上がったりといった変化が多いですね。

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ー海外旅行の話はわかりやすいですね。

田中さん:たとえば、ある参加者が子供の頃から憧れていたものづくりの職人さんの職場に行くとするじゃないですか。外から見ると格好いいイメージしか持っていなかったけど、実際はひたすら何時間もずっと削り続けている。こんな地味なんだと思うわけです。

そして、「自分の働いている会社はものづくりのプロモーションを手がけていた。もしかしたら、そういう関わり方もあるのでは」といった気持ちに気づくわけです。

—いいですね。「就職する」というリスクを背負わず、自分の気持ちを確かめられるって。

田中さん:ある種の自分のチューニングにつながっているんじゃないかなと思っています。自己認識じゃないですけど、何で憧れていたんだとか、やってみたけどできないってわかることによって、自分の方向性が定まることにつながるってことを感じますね。

いろいろな仕事を見て、「これでいいんだ」と思えることが大切

—このメディアの読者は主に大学生になるんですが、いろいろな仕事を見るときのコツってあるんですか?たとえば、仕事旅行の参加者で職場体験の上手な人と下手な人の違いとかありますか?

田中さん:ありますね。受け身なのか、自分から取りに行くかの違いは大きいと思います。仕事旅行社で紹介している職場体験は基本的な流れは決まっていますが、実際の職場なので、現地で何が起こるかわかりません。

だから、その場で起きていることを、その場で質問するといった具合に興味を持って深く探っていくことがすごく重要なんです。そういう状況の中で、前のめりに突っ込んだ質問をガンガンしているような人は、職場体験が終わった後もワクワクされて帰りますね。

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ーどうして突っ込んだ質問をしたほうがワクワクするんでしょう?

田中さん:じつは、どんな職場でも結局は人間がやっていることなので自分とそんなに変わらないんですよね。だけど突っ込んだ質問をガンガンしていくと、それまで自分とは程遠い存在と思っていた職人さんや会社の人も、思わず人間くさい部分が出てくる。

それが、「自分とさほど変わらないかも」という感覚とつながるんですよ。自分事化されるというか。そこで「じゃあ、自分もやってみよう」と前向きな気持ちにスイッチが入る。

でも、ずっと受け身で聞いていると、その職人さんの仕事や会社のキレイな部分しか見えないので、「やっぱり、私にはできない」って他人事で終わってしまうんだと思います。

ーすごいところだけ見せられて、自分にはできないという感覚はよくわかります。成功した人の本とか読んでも、その気持ちになりますよね?

田中さん:本やセミナーは編集されたキレイな所しか見ることができませんからね。でも、職場を訪れると、たとえばホワイトボード一つ見ても、じつは裏でこんなに泥臭くやっているんだとか思う。「これで、いいんだ!」って。それが結構重要な気がしています。

飛び込んでダメだったら、次にダメだった理由を説明すればいい。

—でも、仕事旅行にしてもインターンシップにしても、やり尽くすことは無理じゃないですか。どのくらいやってみればいいと思いますか?

田中さん:多くても10個くらいやれば、見えるんじゃないですかね。だって、1つやってみたらここが好きだった、ここが嫌いだったっていうのが自分の中でわかるじゃないですか。嫌いな要素がある方には行かなくなる。だんだんチューニングされていくので、100個200個やる必要はなくて。
その仕事そのものが好き嫌いというよりは、要素として、一人でやる時間が好きとか、お客様と話すのが好きとか、そういう要素の切り出しをすることが自己分析なのかなと思います。

ーそうすると、仕事を選ぶ基準が自分の中にできてくるということですかね?

田中さん:そう。最終的に持ちたいのは自分の物差しですよね。単純に稼げる方とか、選択肢の広い方とかに行くんじゃなくて、自分の物差しに合いそうな企業の方に行く。飛び込んでみて違ったら、別に次の時には違った理由を説明すればいいだけなので。

物差しの正確性を調節していくってだけの話ですよね。そういう意味でも、最近の若い人は、いろいろな仕事をとにかく見に行ったほうがいいと思います。

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