人の意識をアップデートしたいー。 人工知能の最前線で学ぶ学生が目指す世界。(大阪大学 佐久間 洋司)

コンピュータが人の仕事を奪うー。そんな話をどこかで聞いたことがあるだろう。
これからのキャリアを考える学生にとっては恐ろしい話かもしれない。

実際、金融や広告、人材など、あらゆる分野で「〇〇テック」とつく言葉が登場するようになり、AIやディープラーニングといった用語を聞かない日はない。
しかし我々はコンピュータのことをどこまで理解しているのか?
そんな中、コンピュータサイエンスの分野で活躍する学生がいると聞き、大阪大学の佐久間君という学生のインタビューを行った。
「いつか人の意識をアップデートさせたい」と語る彼のコンピュータ観とは?
(取材/執筆:羽田啓一郎)
*インタビュー記事は全て取材時、2017年12月時点のものです。

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人間関係のトラブルが、人工知能の道へ進むきっかけに。

羽田

こんにちは、今日はよろしくお願いします。

佐久間

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

羽田

えっと、大阪大学でコンピュータサイエンスを学んでいるんですよね? 院生?

佐久間

いえ、学部の三年生です。石黒浩教授の研究室で、研究生という形でご指導をいただいています。大学とは別に、学生自ら次世代の人工知能の研究やその応用を促進することを目指した、人工知能研究会というコミュニティの代表もしています。

羽田

もともと関西の人なんですか?

佐久間

高校まで東京だったのですが、どうしても石黒先生の下で研究に取り組みたいと思って大阪大学に進学しました。ですから、研究室に迎えていただいたことは本当に嬉しく思っています。

羽田

留学もしてるんですよね?

佐久間

トビタテ!留学JAPANでカナダのトロント大学に留学させていただいて、いわゆるディープラーニングという技術について学びました。企業でのインターンも経験して、産業界で人工知能がどう活用されているのかを目の当たりにして刺激になりました。

羽田

ちなみに、どうしてそっちの道に進もうと思ったんですか? 大学進学の時点ですでにコンピュータに関心があったってことですよね?

佐久間

最初のきっかけは些細なことで、小学生の時に間違ってUbuntu搭載のノートパソコンを買ってしまったのを機にプログラミングをするようになりました。かと言って、その頃から人工知能の道に進みたいと考えていたわけではありません。

羽田

それが、何故?

佐久間

僕が本当に興味があるのは人の気持ちや意識のようなものです。それを理解して変えていくために、コンピュータや人工知能が欠かせないと思うようになったのが理由です。

羽田

ん、人の気持ち? どうして?

佐久間

高校時代に先生や学校、周りの人ともめたことがあって、意識や人との関係性について興味を持つようになりました。

羽田

あー、まあ、多感な時期ですもんね。僕も色々もめたなあ……。

佐久間

心から分かり合える人に恵まれる機会があると同時に、どうしても理解しあえない瞬間というものを目の当たりにしたときに、どうして相手のことを思いやることができないのかという課題を認識しました。
そして、私たちの意識はどうやって他の人と向き合っているのか、どのようにして変えていくことができるのか真剣に考えて、今の道に進もうと決めました。

羽田

えっと、よくわかんないんですけど人の気持ちへの関心がどうしてコンピュータを学ぶことに繋がるんですか?

人の意識をアップデートする。その先に見える世界。

人工知能研究会研究テーマ共創アイデアソンでファシリテーションをする佐久間さん

佐久間

個人的には、コンピュータサイエンスそれ自体に興味があるわけではなくて、コンピュータはビジョンを実現するための手段だと考えています。

羽田

ビジョン?

佐久間

はい、何かを作ること、開発することそのものが好きという方も多いですが、技術そのものが目的になるのではなく、何かビジョンがあって、それを実現するために技術があるという考え方が好きです。僕は当時から「世界から争いをなくしたい」というビジョンを心の中で持っていました。

羽田

もう少し詳しく聞いていいですか?

佐久間

さきほども少しお話しましたが、僕は高校時代に人と人が理解しあえない、という感覚を経験しました。大なり小なり、人間同士の争いの原因には相互の不理解があると思っています。

羽田

ふむふむ。

佐久間

情動的共感と呼ばれるんですが、相手に対するある種の思いやりのようなもの、それを促進させることができれば争いは減るのではないかと思います。そしてそれを機械で、コンピュータで実現できるだろうかということに興味があります。人の意識や感情に影響を与える技術を作りたい。ものすごく大げさにいえば、人間の意識をアップデート、進化させることができたらと考えています。

羽田

ほお。

佐久間

人の気持ちが理解できないのは、そもそも理解しようという状態にならないからだと思うんです。そこに、外発的な刺激を与えて意識にアプローチすることで、人の気持ちを理解できたら素晴らしいことです。一つの分野に限らず、VRからロボティクスまで様々な分野で研究されている技術を俯瞰して取り入れていくことで、部分的にでも実現できるんじゃないかと思っています。

コンピュータは人の仕事を奪うのか?

留学先のスタンフォード自動車研究センター(CARS)を訪問

羽田

コンピュータって便利な一方、これから人間の仕事を奪うって言われてるじゃないですか。AIとかロボットってある面で、恐れられている概念だと思うんですけど。佐久間さんの同世代の学生は自分のキャリアを考える上で脅威になっていくわけですが、それについてはどう思います?

佐久間

よく使われている表現には語弊があるなと思っています。日本語の「仕事」という単語を使ってしまうと「仕事を奪う」とつい言ってしまいますが、例えば、英語ではジョブとタスクという言い方に分けられると思います。その意味で、まずなくなっていくのは一つ一つのタスクであり、ある職種(ジョブ)が突然なくなるということではありません。

羽田

……なるほど。

佐久間

状況としてはオフィスソフトが普及していったのと似ているかもしれません。例えばエクセルによって、ある種の計算がとても楽になって経理などを中心に様々なタスクが代替されていきました。求められる業務の内容が変わったり、結果的に人員が徐々に削減されていったかもしれませんが、職が突然なくなったわけではなかったかと思います。

羽田

そう考えると、シンギュラリティとかもよく言われますけど、AIがちょっとブームっぽくなってますよね。あんまりよくみんな考えてないけどとりあえず流行ってる、みたいな。

佐久間

そうですね、今は人工知能ブームなんだろうと思います。そうすると、「人工知能が重要になりそうだから」会社でも導入できないか考える、参入するという方も増えていくと思います。決して悪いことではないと思いますが、人工知能で最前線を行くトロント大学で僕が学んだのは、「盛り上がってるからやろう」ということではなく、人の知能を理解して実現するというビジョンを持った上で、その過程でディープラーニングなどの研究をするに至ったという姿勢でした。

羽田

そこは意外だなあ。人の内面や理解なんて無関係な世界観なのかと思っていました。

佐久間

深層学習の父と呼ばれているGeoffrey Hinton教授がトロント大学にいらっしゃるんですが、そもそもは深層学習を研究しようとしていたわけではなくて、人の知能について理解したいというところから始められたそうです。手段としての研究はビジョンの後からついてくるものかもしれません。僕の場合は、争いをなくしたいという気持ちでやっています。

羽田

なんとも言えないかもしれない質問ですが、それっていつごろ実現するんですか?

佐久間

人の意識に影響を与えるような装置、ちょっとした仕組みなら数年後には普及してくるかもしれません。でも、社会全体に、多くの人たちに影響を及ぼすようなシステムまで成長するのがいつになるかは全く予想できません。自分はそれに取り組んでみたいと思うし、たとえ100年かかるんだとしても、100年後の世界を作る礎になっていたいと思っています。

羽田

ちなみに佐久間さんは今後って研究者として生きていくんですか?

佐久間

自分の目指すビジョンそのものが決まっていたときに、何らかの職種とか会社にこだわる必要はないのかなと思っています。研究者かもしれないし、起業するかもしれない。ひょっとしたら政治家を目指すかもしれない。

羽田

なるほど。

佐久間

何がしたいのか、という質問はいいと思うんですが、何になりたいの、と聞くのは違うのかもしれないと思っています。自分のビジョンがあって、その実現のために、今のところは研究者はとても魅力的な選択肢だと感じています。

羽田

いやいや、本来はそうあるべきだと僕も思います。しかし今日は人工知能についてのイメージがまるで変わりました。ありがとうございました!

佐久間

こちらこそ、ありがとうございました!

取材後記

「コンピュータが人の仕事を奪う」数年前から盛んに言われており、多くの学生が自分の将来について不安に感じるトピックスの一つなのではないだろうか。
最近、企業の採用選考にもAIが使われ始めた。また応募者と企業のAIによるマッチングサービスも登場している。
私個人の感覚として、さほど人工知能に詳しくない、という前提でだが、「コンピュータが本当に人の適職やキャリアを判別できるのか?」と感じる部分も正直ある。
考え方が古いのかもしれないが、人と人は「運と縁と勘」なんじゃないかなとも思ってもいる。
だから今回佐久間さんを取材させてもらうにあたり、コンピュータ、人工知能と人間の関係性についてはどう考えているのかを是非聞いてみようと思っていた。
ただ話を聞いてみると、私の感覚は完全に視野が狭かったのだと痛感した。

コンピュータと人間を二項対立で考えるのではなく、人間をより理解しようとする課程で人工知能がある。コンピュータは手段であり、何かしらのビジョンを達成するためにコンピュータがあるのだ。
そう、考え方はシンプルで、コンピュータの存在に警戒するのではなく、それを扱う人間としての人間力やスキルを我々は磨いていけばいいのだ。そして私たちの生活を、人生をより豊かにするためにコンピュータをどう使うのか。
「人間の意識をアップデートしたい」。このビジョン、素敵だと思いませんか?

(取材/執筆:羽田啓一郎)
MY FUTURE CAMPUS責任者。企業の新卒採用の担当営業を経験後、キャリア教育事業の立ち上げを担当。大学の嘱託講師や政府の政策研究委員、新聞の連載コラムなども経験あり。

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