【学生団体 Bizjapan】『宇宙』と『医学』(前編)


「宇宙」と「医学」。
この2つの言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
「いや、全く関係ないじゃん!」という方もいれば、ISS(国際宇宙ステーション)で宇宙飛行士が実験したりトレーニングしたりしている様子を思い浮かべる方もいるかも知れませんし、ひょっとしたら、骨粗鬆症の研究や、タンパク質の結晶生成による新薬開発など、ご存知の方も多いかも知れません。しかし実は、「宇宙」と「医学」との間には、これだけに留まらない世界が広がっています。しかもその世界は、殆ど未開拓も同然。誰もが参画できるブルーオーシャンなのです。
今回から2回に渡っての連載では、この未知の世界を開拓していく新たな領域、宇宙医学について、その最前線とこれからをお伝えします。
今回は、「宇宙医学とは?」という導入に始まり、その研究事例をご紹介していきます!

「宇宙医学」とは?

宇宙1

宇宙医学、と聞くと、「え、医学にそんな分野あるの?」と違和感を覚える方は多いのではないでしょうか? それもそのはず。宇宙医学は、内科や外科といった分類とは全く異なる切り口で見た医学の分野なのですから。医学は通常、「人間の心身の何のどの側面を見るか」によって、呼吸器外科や神経内科といった風に分けられていきます。対して宇宙医学は、「人間の心身は宇宙空間でどう振舞うのか」を追究する学問であり、「人間をどんな環境に置くか」によって分類したうちの一つです。
宇宙空間の人間にとっての特徴は、大きく
1.微小重力
2.高放射線量
3.閉鎖環境
が挙げられます。こんな環境に行った時、人間の体に何が起きるか、想像してみて下さい。きっと、疑問だらけになるのではないでしょうか。足の筋肉はどうなるのか? 全身の血液は、地上と変わらずに流れ続けるのか? 上も下も分からず、変な感覚にならないのか? 口に運んだ食べ物は、地上と同じ様に喉を通るのか? 子供の背は、「縦」に伸び続けるのか?

「宇宙に生きる」プロジェクト

このような疑問を探求しているのが、宇宙医学の研究者です。日本では戦後の早い時期に始まり、脈々と研究が積み重ねられてきました。そして今、宇宙で人間が生きていくために必要な知見を包括的に知るためのプロジェクトが動いています。それが、科研費の「宇宙に生きる」プロジェクトです。リーダーは、JAXAで今も活躍されている、古川聡宇宙飛行士。医師というバックグラウンドを持ってのISSでの長期滞在で、宇宙という特殊空間ゆえの様々な医学的ストレスを経験した古川氏は、「これらは相乗的に作用するのではないか。地上でも関連する問題があるのではないか」と考えるに至り、このプロジェクトを始動させました。
「宇宙に生きる」は11の計画研究班と28の公募研究班とによって進められます。各班の研究内容は、実に多種多様。ここでは、その一部をご紹介します。

顔はむくみ、視力は落ちる?

宇宙2

いきなりですが、試しにインターネットで、JAXAの宇宙飛行士の宇宙飛行前と飛行中の写真を見比べてみて下さい。飛行中の顔の方が別人のように丸くなっているのがお分かりになると思います。これは、普段血液を下半身へ引っ張っている重力が無くなり、血流が上半身側に流れ込んでくることで起きる現象で、「体液シフト」と呼ばれます。また、宇宙飛行の時に飛行士の視力が落ちてしまう、ということが経験上知られています。これは、頭蓋骨の中での体液の分布が変わることで、視神経への圧力が高まることが関係しているのではないかと言われていますが、確定的なことはまだ分かっていません。日本大学の岩崎教授率いる研究班では、血液などの体液の体のめぐり方が、重力の変化によってどのように変わるのかを研究しています。

重力は細胞1つ1つに働く、という「当たり前」の話

皆さんが地上で真っ直ぐ立てるのは、三半規管が重力を感知しているからです。「当たり前」の話だよ、という方も多いと思います。しかし、そうしたマクロなレベルだけではなく、細胞や臓器といったミクロなレベルでも、重力を感知する仕組みが働いているかもしれないのです。あまり聞き覚えの無い話かも知れませんが、それでも重力が三半規管だけではなく体の細胞すべてに働いている、というのは考えてみれば「当たり前」にも思えますよね。岡山大学大学院の成瀬教授率いる研究班では、重力の消失が細胞内の繊維の張り具合に影響するのではないか、と考え、細胞が重力を感知する仕組みを研究しています。

対策必須、宇宙放射線

見えないけれど、避けられない。放射線の恐怖は、原発事故でも記憶に新しいでしょう。地球の大気というベールの外にある宇宙空間では、地上よりもはるかに多くの放射線を浴びることになります。しかも、一度に沢山ではなく、常日頃から、じわりじわりと。種類も、あまりモノをすり抜けない代わりに当たった時のダメージの大きな粒子線という、地上ではあまり心配されない部類のもの。そのため、対策が必須であるにもかかわらず、宇宙放射線の人体への影響は、よく分かっていないことが多いのです。京都大学の原田教授率いる研究班では、マウスを用いて、宇宙放射線が様々な臓器に及ぼす影響を研究しています。

宇宙3

以上、2回連載の第1回となる今回は、宇宙医学の概要とその個別事例を挙げました。ここに挙げた以外にも、宇宙医学には特色ある研究が数多くあります。人間を取り巻く環境を根本から疑っていく宇宙医学、少しでも興味を持ってくださればと思います。
次回は我々の身近にある宇宙医学、そしてその魅力とこれからを、研究者の方への取材も交えながらご紹介していきます!

Bizjapan第7弾の記事はコチラ!

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