東京大学 農学部 4年生(休学中)喜多 恒介



1381777_513582958736668_2056931709_n「喜多 恒介」。学生団体の活動をしている学生なら、この名前を聞いた事があるのではないだろうか。facebookで彼が何かを投稿すると数百のイイネがつき、彼が何かを募集すると大量のコメントが寄せられる。いわば、彼自体がメディアになっている。

東大を2年間休学し、学生と社会を繋げる様々な活動を全国規模で展開。インターネット選挙運動解禁を目指した「One Voice Campaign」、全国30都道府県101大学1250人の学生を巻き込んだ「Next Leaders Meeting2013」、そして現在は「JASCA 一般社団法人全国学生連携機構」を起ち上げ、全国47都道府県、500の学生団体とともに、国や大学や企業100以上とプロジェクトを行っている。

多くの学生の信頼を集め、企業も彼に一目置いている、いわば学生界の有名人。
しかし、彼がどんな思いでそこまでしてきたのか、そしてその過程で何があって、彼が今、何を考えているのか知る人は意外と少ない。

これまで語られる事のなかった「喜多 恒介」という一人の学生の姿。大学を卒業し、この春から大学院に進むタイミングで、彼の声を聞いてみた。

(*インタビュー記事は全て取材時、2015年3月時点のものです。)

ホームレス東大生。活動のきっかけ。

羽田

こんにちは、これまでも幾つかの仕事をご一緒させていただきましたが、こうして喜多君のお話を聞くのは何気に初めてですね。喜多君の活動は、簡単に言ってしまえば「学生や社会を繋いでいく」事だと思うのですが、何故そうした活動をするようになったのか教えてもらえますか?

喜多

はい、宜しくお願いします。そうですね、問題意識は昔からありましたが、具体的に活動を始めたのは大学2年生の時に家を追い出されてホームレスになった事がきっかけじゃないでしょうか。

羽田

ホームレス⁉︎

喜多

はい(笑)。母親に「あなたは何もない人間だから、一回家を出なさい」と言われまして。売り言葉に買い言葉じゃないですが、「なら出てってやる」と本当に家を出ました(笑)。

羽田

お母さんもすごいですが、普通、出ていかないですけどね(笑)。

喜多

今思えば、自律を促す、いい母親だったなと思ってますが、当時はもう大変でした。代々木公園とかで本当に野宿したりしてましたから。でもあの時、自分が一人の人間として生きていると強烈に感じましたし、昼夜を問わず東京中を歩き回り、24時間社会と接していることで、社会がどんな風に動いているのかを感覚として掴む事が出来るようになりました。あと、その時に知り合った社会人の方にホームパーティに呼んでいいただいて、その場で友人同士を繋げて化学反応を起こしているその姿を見て、「ああ、こうやって人と人を繋げて世の中を良くしていく生き方もあるんだな」と気づいたのもその頃ですね。

羽田

ほほう。しかしそれはなかなかない体験ですね。それが大学2年の時ですか。3年生の時は何をやってたんですか?

喜多

色んなインターンに行っていました。広告、省庁、ベンチャー、コンサル、政治家事務所など、いろいろな世界を見させて頂きました。

羽田

何故インターンに行っていたんですか?就職活動の一環?

喜多

難しいところですね……。色んな所を見た結果、就職活動ではなくて休学という選択をしたので。

羽田

ほう?何故?

喜多

僕が小学校から思い続けていたのは、「日本をよくしたい」という一点です。それが出来るのはどこなんだろう、と。それでインターンを通じて、それぞれの世界を見させていただいて。勿論、どの仕事も魅力的でした。ただ、「日本をよくする」という観点に立つと各業界の立場でしか日本に関われない。オールジャパンで取り組まないといけないのに、自分が一部しか関われない、というのが我慢できなくて。それであれば、僕は色々な企業や社会、そして人を繋げていこう、と。僕がやりたいのはそれなんじゃないかなと思ったんです。

羽田

羽田:なるほど……。しかし何故、それで休学を選んだんですか?

学生にしかできない事。“学生団体”との出会い

喜多

社会人になると、所属する会社や組織のこともありますし、色々と利害関係や立場というものが出てきて、メリットや利益が最優先になってしまいます。もちろんそれが悪いというわけではありませんし、事情は理解しています。
しかし、僕がやりたいのはすぐに結果が出るそれではありません。20年後、社会問題の積み重なった日本を想定し、共に国を良くしていくコミュニティをつくりたかったのです。それであれば、様々な人が学生時代に抱く純粋な想いを受け止め、立場に関係なく人を繋ぐことのできる“学生”の方が、将来ともに日本を良くする仲間ができやすいだろうなと。

羽田

ううむ。“学生時代の活動”ではなく、長期的な目標の為に学生という立場を利用したという事ですかね。

喜多

そうですね。そして、その頃に学生団体という存在に出会いまして。これは面白いぞ、と。

羽田

どの辺りが面白いと思ったんですか?

喜多

問題意識や理念を持って活動している学生がたくさんいるんだって事ですね。それまでは全然知らなかったんですが、当時、SNSが流行り始めていくのと同時に学生団体がぐぐっと盛り上がっていた時代で。ただ、残念なことに、それぞれがバラバラに活動をしていた。それならば、僕は彼らを繋いでいこうと思ったんです。

羽田

なるほど。僕が学生時代だった頃は学生団体というと、過激な政治思想を持った少し怪しい団体というイメージだったんですが、今はそんな事ないですもんね。しかし、どうして今の学生はそういった活動に身を投じていくんだと思いますか?

喜多

難しいですね。僕にも言えますが、「自分が何者なのか知りたい」という感覚でしょうか。自分が何の為に存在していて、何ができるのか。焦燥感とまでは言いませんが、今の学生の多くは、アイデンティティを欲しているような気がします。

焦りと不安。学生の、限界。地獄の日々。

羽田

それは何となくわかる気がします。MFCのイベントやってて思いますが、今の学生さんは、フィードバックを凄く欲してますよね。自分が周りとどれくらい差があるのか、他から見えるとどうなのか。そうやって自分の立ち位置を確認して成長していくのはいいことだと思いますが。でも、そうしたビジョンを持った同世代の学生仲間はもう卒業してませんか?

喜多

そうですね。僕の同級生はもう社会に出てバリバリ働いてます。

羽田

少し意地悪な質問をします。一緒にビジョンを持って活動していた仲間が学生を卒業して社会人になって、複雑じゃないんですか?喜多君だけ残って活動してるのって。

喜多

それは無茶苦茶ありますよ。同級生が社会に出てバリバリ働いて、そして成果を残して、物凄く成長しているのが僕から見てもわかる。それに対して僕は一体何をやってるんだろう、と。取り残されているんじゃないかという感覚にたまに襲われます。辛い事だってたくさんありますしね。

羽田

ほう?例えばどんな時に辛いんですか?

喜多

色々ありますがもし一つ挙げるとすれば、2013年にNEXT LEADERS MEETINGという日本全国の学生団体をつなぐイベントです。学生だけで盛り上がるのではなく、企業や社会からもバックアップを受けて、全国の学生の想いを仲間で共有したコミュニティをつくり、社会に発信していこう、という。
1,000人単位のイベントでしたし、かけているお金も一千万単位でかなり大きなプロジェクトでした。羽田さんにも色々ご協力いただいてありがとうございました(笑)。

羽田

いえいえ。外から見ていると凄いなと思いましたが、舞台裏は大変だったという事ですか?

喜多

大変なのはいいんです。ただ、一緒にやっていた仲間たちと決別するのが、本当に辛かった。みんな同じ想いをもって、熱いビジョンで一緒に活動を始めた筈なのに、扱うプロジェクトが大きすぎて限られた時間の中では「学生の限界」がきたんです。学生は、学校の勉強もあるし、バイトだってある。それらを犠牲にしてまでやれるのか。犠牲にするだけの意味がこのイベントにあるのか。
正解はありません。ただ結局、その環境と意識の差の中でチームで動いていくのに限界がきて、色んな仕事があちこちで止まってしまった。その結果、一緒にやっていくのが難しいと判断しなくてはならない人たちがいたんです。

羽田

……なるほど。

喜多

人間としては大好きな人たちです。でも、学生生活を犠牲にしてこっちに付き合え、覚悟が足りない、とか強制することが出来るわけがありません。僕は、人が人を変えるのはおこがましいと思っているんです。僕に出来るのは、誠心誠意対話して、自分の気持ちを伝えること。その結果、相手が同意してくれたら嬉しいし、そうでないならそれは仕方ないことです。元々自分は、「誰も傷つけずにいたい」と強く思う人間だったので、仲の良かった友人がチームから去っていった時は辛くて、夢枕に出てくるくらいでした。

羽田

学生の限界、なるほど。活動が本業ではないですものね。

喜多

進行の遅れから現実的な問題も山積していました。「1,000人集めます!」と言って大物政治家や有名企業の会長に参加いただく事もとりつけたのに、一向に告知できる段階にいかない。開催日1ヶ月前なのにまだ集客活動ができない、みたいな状況。協賛企業様への営業活動もままならず協賛金が集まってないのに会場はおさえないといけない。自分達のお金で会場押さえて、これで人が来なかったらどうしよう、と。人が来てくれても完成度の低いものになってしまったら、参加してくれた人たちにも申し訳ないし、協賛企業や関係者の皆さんの顔に泥を塗ることにもなる。今となってはこうして話せますが、当時は本当に地獄のような日々でした。

何故、そこまでやるのか。

羽田

僕が知りたいのがそこなんです。今回インタビューしようと思ったポイントでもあるんですが、何故そこまでやるんですか?多くの学生は理念を持った活動をしていても“大学生”という一つの季節を卒業していく。しかし喜多君は大学を休学し、金銭的に厳しい思いをしながらも学生であり続けて活動を続ける。その覚悟の正体は何なんですか?

喜多

まずお伝えしたいのは、僕が続けていて他の人が活動をやめていくのは、何も覚悟の違いではないと思っています。僕は昔から「将来は社会の役に立つ人間になれ」と親から言われ続け、それが自分の中で当たり前になっていた。それで「日本を変えるぞ」と思って東京大学に進学しました。最初は漠然とした思いですし、みんなと変わりません。それで政治、経済、哲学、農業、医療、様々なことを学んでいくうちに、日本が危機的状況にある事をどんどん実感して、思った以上に問題は根深いという現実を突き付けられました。

羽田

今、社会問題に関心を持つ学生は本当に多いですものね。自分達世代の問題だと捉えているような気がします。

喜多

そうですね。ただ、そのような問題意識を持ち始め、実際にそれを行動に移し、解決まで持っていこうと思ったら、大学生活4年間ではとてもじゃないが足りません。多くの学生は、大学生活4年間という現実的な壁にぶつかり、卒業し、活動をやめていきます。
僕の場合は、ありがたい事に家庭環境的に休学が許された。僕は恵まれた環境にいるんだから、今の僕にしか出来ない、そして日本にとって必ず必要だと信じていることをしていこう、と思っただけなんです。

羽田

そこまで感じている日本の問題意識って何なんですか?

喜多

少子高齢化はじめ、日本には様々な問題がありますが、一番根本にあるのは人の意識のあり方です。社会問題に対して意識を向ける人がもっと増えてほしいし、夢や志を持つ人がもっといてもいい。それでいて、恩送りというか、想いや愛情が循環させられる人が沢山いてほしいと思っています。

羽田

なるほど。

喜多

少し甘いことを言っているように思われるかもしれませんが、そうでもないとこの国はやっていけないのではと感じている。そのためには自分一人が強くなっても仕方ない。想いを持った人達が繋がり、社会問題を解決していく仕組みをつくる必要があると考えています。
僕がやっていきたいのはその仕組みづくり。自分一人が強くなっても仕方ない。思いを持った人たちが繋がれる国にしていかないと。

羽田

うーん、なんというか、根本的に、人を信じているんですかね。でも実際、その活動していて絶望する事はないんですか? 信じている分、裏切られると辛そうですが。

ギブアンドギブ。互酬性の規範。そしてこれから。

喜多

確かに意見が合わない人もいます。でも、そこで敵対しても仕方ないかなと。唯一ちょっとなーと思うのは、与えられたのに誰にもそれを返さない人。自分だけのメリットで止めてしまう人。僕に返してくれなくてもいいけど、どこかに還元してほしいですね。僕自身が大切にしているのはギブアンドギブ。最初からメリットを求めない。でも人に何かをギブし続けていれば、大抵いつか自分に返ってきます。互酬性の規範っていうそうなんですけど。そういう循環が起こる仕組みを作りたい。

羽田

ううむ!僕も含めですが、考えるレイヤーが他の人とは違う印象です。自己犠牲の精神なんですかね? ちなみに、これから先は何を?

喜多

いや、自己犠牲じゃないと思います。巡り巡っていつかは自分に返ってくるって信じてますから。これからは、SFCの大学院に進んで、ソーシャルキャピタルについて学びます。このまま東京オリンピックまで、若者と社会の橋渡しの活動は続けたい。
SFCには僕の学びたい比較的新しい分野での知見や、それを実際に形にして検証するための人的ネットワークがあるので、そこで勉強しながら自分の活動を続けていきたいと思っています。

羽田

なるほど。ちなみにその後どうなりたいってあるんですか?

喜多

その後はどうするかはまだ決めていません。自分がやりたい事を実現できる手段が政治家なのか社会起業家なのか、それともどこかに就職するのか、全くわかりません。手段は何でも構わないです。
ただ、自分自身はいつまでも強くありたいし、優しくありたい。どこまでいっても「いい人」であり続けたいと思っています。辛い思いもしますし、そうそう現実うまくいかない事もあるのはわかっています。それでも「力」だけに頼らない、「刀」を抜かないやり方で、社会をよりよくしたいなと。それが前の世代とは違う、僕らの世代に課せられた使命だと感じています。

羽田

一貫してますね。僕らは僕らで頑張っていきますので、またこれからも宜しくお願いします!

喜多

こちらこそ!

取材後記

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「凄いのはわかるんだけど、この人は一体何を考えているんだろう」。彼と初めて会った1年半前に、私が率直に思った感想だ。きっとこのような感想を持っている方も多いのではないだろうか。
ただ、正体はわからないけど、彼の行動が、思いが、嘘偽りがないものだという事は分かる。言葉では理解していないけど、彼の事は信用できる。これもまた、多くの方が抱いている印象なのではないかと思う。

今回こうして初めてインタビューをさせていただき、考えている視点のレイヤーが私含め多くの人のそれとは全く異なるのだとハッとさせられた。そして自分の思いやビジョンに向かって愚直に取り組んでいる事も彼の特徴だろう。そうはいっても、行動に移して結果を出し続ける事は簡単な事ではないのだ。

もしもあなたが何かに悩むなら、彼のところを訪ねてみてもいいかもしれない。それが独りよがりの思いでない限り、彼はきっと何かを示してくれる筈だ。

(取材/執筆:羽田)

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